第六話 聖女は第二王子と交流を深める
その日以来、あたしは王城へ行くことを拒まなくなった。というか、自分から頻度を上げた。王族側も神殿側も大喜びである。
あたしの目的はもちろん、カーティスとの茶会の後にレオンと会うためなのだけれど。まあ、周りの思惑とは違えど、結果的に両者の利害が合致しているのなら何だって良いのだ……少なくとも、今は。
レオンはと言うと、初回こそ警戒心をあらわにした対応を取られたものの、それ以降はあたしを見て顔を綻ばせせて迎えてくれる。口角が数ミリ上るだけといっても、確かに綻んだものは綻んだのだ。
交わす言葉は他愛もないものばかりで、一日経てば綺麗さっぱり忘れてしまっていても不思議じゃないけれど、あたしにとっては貴重な時間なのだ。多分、レオンにとっても。何せ二人とも、雑談に付き合ってくれる相手がお互い以外にいないもので。
そんなわけで、あたしは今日も今日とて退屈なもう一人の王子様とのお茶会を終えた後、庭園を散策してくると言い残してレオンの元へ向かうのだ。
程なくして到着した離宮の庭に、いつも通り彼はいた。あたしの気配に気づいたからか、彼は読みかけの本を閉じてこちらへ視線を向ける。
「レオン、来たわよ! ところで何を読んでたの?」
「いらっしゃい、エラ。気になるなら見てくれて良い」
その言葉と共に手渡された本の表紙には、誇らしげに剣を掲げる青年が描かれていた。その背後には、真っ白な衣装に身を包み、両手を組んで青年を見上げる美少女の絵。十中八九、勇者と聖女だろう。
「勇者の本?」
見たままを口にすれば、レオンはこくりと頷いた。
「そう。つまらなかったけどな」
「珍しいのね。孤児院にいた頃は、みんな勇者の物語が好きだったのに。ねえ、どうして?」
あそこでは定期的に勇者ごっこが流行り、そこらに落ちていた木の棒を片手に暴れ回る子どもがそこら中にいた。何を隠そう、あたしもしばしば参加していたのだが、あるとき枝に困った誰かが孤児院の木の枝を折ったせいで、長期間の勇者ごっこ禁止令が出された記憶がある。
だから、この物語をつまらないと評する彼の感想を、聞いてみたいと思ったのだ。
「小さいころは、俺も特に疑問には思ってなかった。だけど、最近改めて思ったんだ。勇者が魔界に侵攻する動機が曖昧すぎる」
「動機? ……確かに、考えたこともなかったわ」
魔族が勇者に倒される理由なんて、魔族は魔族だからと軽く片付けてしまっていた。しかし言われてみれば、存在しているだけで倒されて然るべきだなんて、変だ。
そんなあたしの思考を知ってか知らずか、レオンは続ける。
「魔族がこの国に具体的な被害を及ぼす行動をしているなら、理解できるんだ。実際、歴代の勇者の中にはそれを理由に旅立った人が複数人いる。でも、大体の場合、悪の総裁たる魔王を打ち破るために勇者は立ち上がった──みたいなことしか書いてないんだよな」
うんうんと頷き、聞く体制に入ったあたしをちらりと視界に入れた彼は、再度口を開いた。
「それに、本気で魔界を滅ぼすつもりなら、軍隊を派遣した上で魔王を倒した後はこちらの支配下に置く体制を敷くべきだ。それなのに、不定期にしか現れない勇者を含めた複数人の小隊だけに大任を命じたり、生き残った魔族を放置するなんておかしいと思う」
二人揃って首を捻ったが、考えれば考えるほど合理的な理由に至らない。沈黙の中口火を切ったのは、埒が開かないと判断したあたしだった。
「きっと、外部的な要因が絡んでくるんじゃないかなって思う。今度会うとき、関係ありそうな本を持ってくるから、待ってて!」
「……うん、楽しみにしてる」
口元を緩ませたレオンに、あたしもとっておきの笑顔で答えた。




