第五話 聖女は第二王子と出会う
紅い瞳と、目が合った。
続いて切れ長のそれがキッと細まり、睨まれたことを悟る。
これが他の誰かだったのなら、数倍はガラの悪い目つきで睨み返してやるところだが、生憎今のあたしには、そんなことをしようという気持ちなんて微塵も湧かなかった。
心の奥底まで見通してくるかのような深い紅が、ひどくうつくしかったから。
「どこの誰だか知らないが、さっさと帰れよ」
呆然と佇むだけのあたしに痺れを切らしたのか、少年は鋭い眼光をそのままに、口を開いた。
あたしが高貴なお姫様だったのなら、この言葉にひどく矜持を傷付けられたと感じるのだろう。
しかしこちとら、十五年間ただの平民をやっていたのだ。
キツい言葉を投げかけられることなんて慣れっこなんだから!
だからあたしはにっと笑みを浮かべて見せ、言葉を紡ぐ。
「あたしはエレノア。エラで良いわ。それにここには招待されて来てるから、帰りたくても帰れない」
「エレノア……ああ、“兄上”の婚約者か」
「違う!」
何か引っ掛かる言葉があったような気もしたが、間髪入れずにそう答える。
いや、そう見なされていることは重々承知しているけど、まだあたしは認めていないのだ。
それに、この少年にはなんとなく、“誰かの婚約者”という目で見られたくなかったので。
「あたしがそう見なされてるのは知ってる。でも正式に婚約したわけじゃないし、あたしはあのハズレくじと結婚するつもりなんてないんだから!」
あっけにとられたような表情であたしを凝視する彼を見て、あたしは慌てて口を手で覆う。
慌てて周囲を確認して、誰もいないことに心底安堵した。
「驚いた……お前は、アイツをそんな風に評価しているのか」
「当然じゃない! ことあるごとにこっちを見下してくるんだもの! 無意識なのが余計にタチが悪いし……とにかく、あたしはあの男と結婚するつもりなんてない! ……待って、“兄上”?」
そこまで言い切ってから、あたしはようやくこの少年の発言を思い出し、そして軽く瞠目した。
先ほどまで、散々囀っていたのが嘘のように、黙り込んだ相手を見かねてか、彼は少し肩をすくめつつ、口を開く。
「アンタの想像通りだよ、聖女サマ。俺はこれでも王の子どもだ。……ま、妾腹だけどな」
そう言って、少年はどこか寂しげに目線を逸らしてしまった。
王の妾だという母親はどこにいるのかだとか、離宮に放り込まれているのはその瞳の色ゆえなのかだとか、色々と聞きたいことはあるけれど、とりあえずは、
「エラで良いって言ったじゃない。それと、アナタの名前も教えてよ」
予想外の問いかけだったからなのか、彼は思わずといった様子であたしの方へ視線を寄越した。にこっと笑って、答えを促す。
「……レナード」
「そう、じゃあレオンって呼ぶわね」
最近同じ年ごろの人とおしゃべりができないから、話題がたっくさん溜まってるの。付き合ってくれる?
そう続ければ、彼──レオンは呆然とした様子で、しかしちいさく頷いた。




