表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

第四話 聖女は第一王子から逃げ回る

「エレノアー、どこにいるんだい? 恥ずかしがらずに出ておいでよ」


 あたしの妃教育が終わって少し経ったこの時間帯、柔和な笑顔を浮かべたカーティスが、そう口にしながら王宮の庭園を歩き回る光景は、もはや日常茶飯事と化している。

 彼の後ろに付き従う数名の侍従たちも微笑ましげな表情でカーティスを見守っており、なんなら子どもが隠れそうな茂み──実際先ほどあたしが隠れていた場所だ──を彼にそっと指差したりしてサポートしていた。

 

 彼らにとって、この時間は初々しい婚約者同士の戯れの一環であるようだ。

 

 ──こっちは本気なんですけどね!?

 

 そう心の中で叫びつつ、あたしの目は冷静に、次の逃亡ルートを探る。

 少しして、追っ手が茂みから離れた隙を見て、あたしは彼らの死角になる方向から茂みの方へと再度向かった。

 

 “鬼”が探したての場所に隠れるのが、かくれんぼの定石なんだから!

 

 お上品な遊戯しかしたことがないような王子サマや、貴族のお坊ちゃんに、この手の遊びで負けてしまえば平民聖女の名が廃る。

 当然、身体強化の魔法などによって、視力や聴力などを格段に上げることのできる相手がいればお手上げだけど、幸いその魔法を持つ者は──少なくともこんな茶番に使用しようとする者は──いないようだ。

 

 見当違いの方向をうろつく集団に向かってべえと舌を出したあと、あたしは彼らが別の場所を探しに行くまでその茂みに潜むことにした。

 

 しばらく経ったあと。

 あたしは、やたらと広い王城の敷地を探検していた。

 

 城へ行ってしまうとあの自称王太子との茶会が始まってしまうので、その付近に近づくことはできない。

 かといって、神殿へ戻るのも悪手だ。

 

 あたしとカーティスをくっつけたいのは、何も王族だけではない。

 神殿とて、自身の勢力を伸ばすために王族との繋がりを欲しているのだから。

 

 何が言いたいのかと言えば、神殿に戻ったとて、王宮へと連行されるだけだということ。

 

 そのためいつもこの時間は、城から少し離れた人通りの少ない敷地の散策に費やすことにしている。

 

 ──東はあらかた探検し終えた上に、そちらへとカーティス一向は向かっていたから……今日は趣向を変えて北の方に行ってみようか。

 

 王城には東西南北それぞれに城門があるが、正門が南を向いていることもあってか、北にあるそれはひどく小さく、そこに居る人間も下っ端の使用人ぐらいのものだったはずだ。身を隠すにはうってつけだろう。

 

 そう考えたあたしは、北の方へと足を踏み出した。

 




 しばらくして。

 極力人とすれ違わないよう、細心の注意を払いながら探索をそこそこ楽しんでいたあたしは、こじんまりとした建物を見つけた。

 

 それはお世辞にもちゃんと手入れされているとは思えない姿だったけれど、造りはなかなかしっかりしているようだし、何より王家の紋章である、交差する薔薇と鷹が彫られている箇所があるので、古い離宮なのだろう。

 好奇心の導くまま、あたしは錆びた門をくぐり、裏手へと足を進める。室内へ入ろうかとも思ったけれど、仮にこの場所が再度使われることになったとき、侵入者あたしの跡が残っていたら面倒なことになるのは目に見えているので自重する。


 そう己を律する理性こそ残っていたけれど、追手を完全に巻いたという達成感と、荒れた離宮にまさか人がいるはずがないという思い込みから、あたしは油断し切っていた。

 

 ──端的に言うと、転んだ。

 

 それも、建物の角を曲がった先で、やたらと長い足を伸ばした状態で地面に座っていた人間につまずいて、だ。

 素早く体制を立て直し、慌てて謝罪をするべく相手へと視線を向けた、刹那。

 

「アンタ……誰だ?」

 

 紅い瞳と、目が合った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ