第八十五話 聖女は吸血鬼への理解を深める
「話を戻します。魔力酔いを起こしてでも吸血を行うのは、より多くの魔力を得て、強大な力を手に入れることにあるわけなのですが……現在、人間からわざわざ血を啜ろうとする吸血鬼はほとんどおりません」
「どうして?」
生まれ持ったそれは人間の場合、一生変化することなどない。そのくせ、魔法を扱う上で最も重要な要素なのだから、タチが悪いったら。
副作用があるとはいえ、血を飲むだけで魔力量を増やすことができるという吸血鬼の生態は、あまりにも破格だ。人間の中にはきっと、いや絶対に、その体質を得るなら一定時間どころか、一生陽の光を浴びずとも良いと言い出す人間がいるだろうに。
そんな意図を込めた質問に、彼はあっさりと答えた。
「効率が悪いからです一人の人間が持つ魔力量など、たかが知れ居ていますから」
……確かに、吸血鬼と比べたらそうだろうけれども。
「ほんの少しの血を取り込むだけでは、得られる魔力は微々たるものです。かと言って失血死させてしまうほど吸い尽くせば、後始末が必要になります。その手間を思えば、割に合いません」
仮にも聖女の前でする話じゃないと思う。説明を求めたのはあたしなのだから、甘んじて受け入れるけれど。
「高位貴族はどうなの? 彼らなら、少しの血液からでもそれなりに魔力が摂取できるんじゃ……いや、それも難しそうね。大抵護衛がいるし、返り討ちに合うリスクもあるもの」
「ええ、まさしく」
こくりと頷いたデクスターは、更にこう続ける。
「元来、吸血鬼は貧弱な種族だったのですよ。他者から魔力を奪いでもしなければ、その存在を維持することすらかなわないような一族はしかし、長い年月をかけてそれを取り込み続けた結果、少しずつ基となる魔力量を増大させました。そして、一族の多くが莫大な魔力を保有するようになった今、人間の血を啜る理由は一切なくなった、というわけです」
弱い生命体が生き残るための能力が、強大になった今も名残として残っているという状態なわけだ。
向こうで有名な吸血鬼の逸話は、強者としての彼らという描かれ方しかされていなかったから、考えてみたこともなかった。
──待った、それを考えると、一つ違和感がある。
「人間の間で伝わってる吸血鬼の話だと、彼らは大抵強い力を有しているって描写されてるわ。だけどアナタの話じゃ、力を得た吸血鬼に人間を襲うメリットはないんでしょ?」
あたしの疑問に、彼はすらすらと答え始める。
「物好きの中には、人間を対象とした吸血行動をのものに娯楽性を見出し、積極的に行っていた者もおりましたから、恐らく彼らのことでしょう。その多くは、人間によって討伐されましたが」




