第八十三話 聖女は計画に疑問を呈する
そして今度こそあたしたちは、当初の目的だった資料の整理を開始した。紙束を引っ張り出したり、逆に乱雑に積まれていた本を棚に戻したりを繰り返しているうちに、カーティスたちの収容を終えたデクスターとカミラが戻ってきたので手伝ってもらう。
しばらく経ってようやく、執務室はあるべき場所にあるべきものが収まり、必要なものだけが机上に並べられた空間へと変貌した。
もともと散らかっていた資料は、勇者への対策を講じるためのものばかりだったこともあり、そのほとんどが片付けられている。
すっきりと整頓された机の上に、いつの間にか淹れていたらしいお茶の入ったカップをカミラが人数分置いた。それを一口啜って、レオンは口火を切る。
「まずは、事態がこのような形で収まったことに感謝したい。その上で改めて、今後の展望について話そう。俺は当初の予定通り、国境へより強固な結界を設けるつもりだ。異論はないか」
カミラとデクスターは迷いなく頷いた。あたしもそれに倣おうとして、だけどふと一つの考えが頭に浮かぶ。
「質問しても良いかしら? 異論ってわけじゃないんだけど」
レオンが首肯したのを確認して、あたしは言う。
「人間側が魔界に入れなくなるのは構わないわ。そのせいで、不利益を被る人なんていないもの。断言しても構わない。だけど、逆は大丈夫なの?」
「逆?」
「魔族については知らないことばかりだから、的外れな質問かもしれないんだけど……大なり小なり、人間に関わってきた魔族がいないわけではないのよね? 築いた結界が彼らへどう影響するのかっていうのは、どう考えてるの?」
こんなことを言ったのは、レオンに攫われた翌朝、カミラと交わした会話を思い出したからだ。
『わたしたち魔族は、吸血鬼など一部の種族を除けば、そのほとんどが人には無関心です』
要するに、人間に関心を持つ者はゼロではないということである。レオンがそのことを考慮していないはずがないから、問題ないとは思うのだけれど、気になったことを聞いておいて損はない。
案の定、特に動じた様子もなく、彼は唇を動かし──
「その件に関しては、俺がお答えしましょう」
レオンへ投げかけたその言葉は、彼が口を開く前に、デクスターによって拾い上げられた。
どうして、と問い返す前に、彼はこう続ける。
「俺は吸血鬼一族の当主でもありまして。ですから、ご説明するのにうってつけかと思うのですが、いかがでしょうか?」
初耳である。しかしレオンもカミラも否定しないあたり、本当なのだろう。
それなら確かに、彼の話には確かな価値がある。
「聞かせてちょうだい」
あたしの返答を受けた彼は、語り始める。




