第八十一話 聖女は魔王に口づけされる?
「どうしたの? 何か不満があるのかしら」
にやにやと笑うあたしの瞳に映るレオンは、言葉にして尋ねるまでもなく、それはそれは不満げな表情を浮かべていた。少なくとも、初めて恋人からキスを貰った後に相応しい顔ではない。
面白がっているのを隠そうともしないあたしの様子に、彼の眉間の皺が深くなったのが見えたかと思えば、腰に回された腕の力が強まった。
「どうして、額なんだ」
地を這うような、うんと低い声色で発された文句に吹き出さなかったあたしは、それだけで偉いと思う。
「勝手に期待したのはそっちでしょ? 唇にキスするなんて、あたしは一言も言ってないもの」
つんつんと、先ほど唇を触れさせたばかりのそこをつついた、次の瞬間。
「わ、!?」
至近距離に、レオンの顔があった。
再度屈んだらしい彼の、既に近すぎるその顔が、更にじりじりと近づいてくる。
「そうだな……だが、するなとも言われていない」
彼の吐息が、あたしの唇を湿らす。少し身じろぎするだけで触れてしまうような距離に、彼の唇があった。
優しくおとがいにかけられた指は少し震えていて、だけどそれすら愛おしい。
与えられる熱を期待して、あたしは瞼を落とし──すぐにかっぴらいた。
「失礼いたします。陛下、少々確認したいことが、」
ガチャ、とドアの開く音と、デクスターの言葉が、ほぼ同時にあたしたちに届く。
ノックもなしに入室した彼は、申し訳なさそうな顔で頭を下げた。やたらと距離の近いあたしたちの顔と、腰にがっちり回されたレオンの腕あたりから、即座に現状を察したらしい。
「お邪魔してしまい、大変申し訳ございません。ですがそれなりに緊急性のある話ですので、少々お時間をいただけますでしょうか、陛下」
「……構わない」
絞り出すようにして、了承の言葉を吐き出したレオンの腕の力が、少し緩む。
それを見逃さなかったあたしは、さり気なくその中から抜け出すことに成功した。
じわじわと、遅れて熱を帯び始めた頬を隠すために後ろを向いて、さも興味津々に部屋を見て回っている体を装う。
「広間に残されていた一行なのですが、調査段階と人数が異なっておりまして。勇者を含めて四人がいるはずなのですが、あの場には三人しか残されていなかったのですよ」
うん、確かにあの場には四人いた。取り逃した覚えもない。
既に薄れ始めていた記憶を、手繰り寄せる。
カーティスは手錠を付けたら気絶したから、そのまま床に転がしたのよね。
あと、あたしが結界に閉じ込めた二人がいた気がする。レオンに攻撃を跳ね返された魔導士と、その治療に駆け付けた神官をまとめて捕まえたんだったか。
残る一人は、結界師だったわね。あいつの結界で、二度カーティスを仕留めそこなったのは覚えてるけど、彼の処理は──
「……すまない、俺の落ち度だ」
頭を抱えてレオンがそう口にした一拍後、彼の目の前に裂け目が生まれた。




