第七十九話 聖女はプロポーズを成功させる
レオンがこれから、人間と友好的な関係を築くのを目指すのか、はたまた関係を完全に断絶するつもりなのかは分からない。
吸血鬼みたいな種族がいる以上、完全に断絶するというのは難しいように思うけど……ああ、でも吸血は生きるために必須の行為ではないらしいし、人間を相手にすることはむしろ少ないのだったか。それを思えば、後者でも案外問題ないのかもしれない。
どちらにせよ、あたしが彼と結婚すれば、それは大きな意味を持つことになるはずだ。
と、ここまでが建前。
一番の理由は単に、あたしがレオンともう二度と離れたくはないから、これに尽きる。ただの恋人という関係──向こうはまだ、恋人とすら思っていないかもしれないけど──では足りない。
あたしは、容易に解除することの叶わない繋がりがほしいのだ。
ちょっと、重いかしら。いや、あたしを攫って軟禁したレオンに比べたら、よっぽど軽いわね。
そんなことを考えながら、目を見開いて固まってしまった彼の返答を待つ。
ややあって、何度か深い呼吸をしたレオンは、ぎこちなく口を開いた。
「──ああ。俺も、お前と結婚したい」
彼がそう言い終わるより先に駆けだしたあたしは、その腕の中に飛び込んだ。
急な動作だったにも関わらず、レオンは難なく受け止めてくれる。
彼を見上げてにこりと笑ってみせれば、ふいとそっぽを向かれてしまう。もっとも、単に照れているだけだと知っているから、嫌な気はしない。
「良かったのか、その……こんなに、急で」
ぼそりとこぼされたその言葉に、あたしは笑みを深めて言う。
「そりゃ、ここまで切羽詰まってなかったら、あたしだってもうちょっと恋人期間を楽しみたかったわ。だけど、あたしたちの関係を明白なものにしないといけないんだもの」
そこまで聞いたレオンは、ぐっと眉を寄せ、難しい顔になってしまった。
眉間に手を伸ばし、もみほぐしてやりながら、あたしは続ける。
「でも、アナタと結婚したいのは本当よ。それに、恋人ができることの大半は、夫婦でだってできるもの。だから気にしてる暇があるなら、そんなのがどうでもよくなるくらい、楽しい明日を創ることを考えましょ!」
ぱちり、と瞬きをした彼はようやく、穏やかな笑みを浮かべた。
「その通りだな。いつになっても、お前には敵わない」
「それはどうも。じゃ、早く行きましょ! 仕事を片付けた後でなきゃ、楽しい予定は立てれないんだから」
そう口にして、密着していた身体を離せば、レオンがどこか寂しそうな様子を見せたので、代わりに彼の手を優しく握ってやる。
その表情を分かりやすく明るいものに変えた彼は、繋いだ手をそのままに裂け目を開き、あたしを伴ってそれをくぐった。
デクスター「いち、に、さん……あれ、報告ではもう一人いたはずなんですが、どこに消えたんですかね?」
※レオンによって影に放り込まれた結界師はしばらくそのまま




