第七十六話 聖女は蚊帳の外
「お前たちに、この魔石の持ち出しを許した覚えはないのだが」
レオンの言葉を受け、視線を僅かに逸らしたカミラと対照的に、にこやかな様子のままデクスターは口を開いた。
「ご安心ください。見ての通り欠片にすぎませんから、何らかの魔道具に加工することはおろか、効果を持続させることすら不可能ですので。ほら」
確かに、魔石は時間が経つごとに少しずつ色褪せているように見える。
──いや、そういう問題じゃないような。
あたしがそう口にしようとしたときだった。
「そういう問題ではないでしょう。例え欠片であっても、この魔石は一歩間違えれば人間、魔族問わず大きな脅威になり得ます。改良時の協力者とはいえ……いいえ、だからこそ軽率に扱うべきではなかったのです」
あたし、そしてレオンよりも先に、カミラがそう苦言を呈する。しかし彼女の手にも魔石の欠片は握られている。疑問は膨らむばかりだ。
レオンに視線を向ければ、同様に不可解さを滲ませた表情で、あたしの様子を伺う彼と目が合った。
「最終的に、魔石を持ち出したのは貴女も同じではありませんか。まさか、俺一人の責であるとおっしゃりたいわけではありませんでしょう?」
すかさず挑発じみた文言を投げかけたデクスターに、彼女も間を開けることなく返答する。
あたしたち二人は口を挟む隙もなく、完全に蚊帳の外だ。
「当然です。咎から逃れるつもりは微塵もありません。わたしが言いたいのは、それを知ってなお規律を破ったことについて誠意をもって謝罪し、沙汰を待つべきであるということです。貴方も、わたしも」
随分大げさな、と思ったけれど、彼女の言ったことは全て正しい。
それはそれとして、前から思っていたけど、カミラって魔族だとは思えないくらい真面目よね。
いや、人間と同様魔族にも色々な性格の者がいるんだから、理屈では何もおかしくない。だけどレオンから貰った本を読む限り、かなり珍しい部類であるのもまた事実であるように思う。
とはいえ、この目で見た魔族というのもまだ少ない──というか、今目の前にいるこの三人しかいない上、レオンに至っては元人間だから実際のところ二人である──から、断定はできないわね。落ち着いたら調べてみましょうか。
目の前で繰り広げられる舌戦を眺めながら、現実逃避を兼ねてそんなことを考える。
打てば響くような、と評せば聞こえはいいけれど、それにしたって長いわね!?
登場してすぐは、なかなか息の合った言葉の応酬をしていたように思うのだが、あれは幻聴の類だったのだろうか。
彼らの主君たるレオンならば諫める方法があるのでは、という淡い期待をもって視線を遣れば、彼はげっそりとした顔で首を横に振った。
「諦めてくれ。ああなったら最後、しばらくは終わらん」
がっくりと肩を落とせば、彼の手がおそるおそるといった様子であたしの背に回され、そっとさすられる。
慰めているつもりなのか分からないけれど……結構、いや、とっても嬉しかったので、未だに口論を続けているあの二人には感謝しておくことにした。




