第七十四話 聖女は二人の登場に驚く
「随分、早かったな」
分かりやすく困惑するレオンに、あたしは首を横に振って言う。
「いや、そもそもまだ連絡すらしてないじゃない! それなのに、どうして……?」
主君を護るべく、命令に背いてまで助けにやって来た、と考えるのが自然だろうけど、それなら全員片付けて初めて出て来る理由がない。
避難途中で思い直して戻ってきたものの、そのときには既に戦いは終わっていたというなら成り立つけど、それにしては焦っている様子もないし。
あたしたちの様子に、カミラは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「わたしたちは城内で待機しておりました。ご命令に背いたこと、お詫び申し上げます。並びに、お二方の勝利に心からの賛辞を」
「口上は良い。なぜ俺の命に従わなかった」
レオンの声色には欠片ほどの怒りも威圧感もなく、ただ戸惑いに満ちている。魔王の覇気もへったくれもないけど、あたしも全く同じ状態だから何も言えない。
「もちろん、お二人のことを信じていたからですよ」
単純な疑問に基づいた、彼の問いかけに応えたのはデクスターだった。絶妙にこちらの苛立ちを誘うその表情は、いつも通りの彼そのものである。
その言葉を受けたレオンはというと、しばらくの間黙り込んでしまった。やがて深く息を吐いた彼は、ぼそりと呟く。
「……なるほど。俺はお前たちの手のひらの上だったわけだ」
憮然とした表情を浮かべるレオンに、カミラは涼しい顔をして再度言葉を紡ぎ始めた。
「陛下の真意は当然として、エレノア様も陛下のことは憎からず想っていらっしゃるようでしたから。陛下が計画をお話しになった暁には、必ず止めてくださるだろうと思いまして」
「俺たちが進言するよりも、ずっとよく効くだろうと判断いたしましたので。エレノア様が戦闘に参加してくださるのは、予想外のことでしたが」
付け足されたデクスターの言葉に、あたしは眉をひそめる。
「あら、結構信用されていたのかと思えば、そうでもなかったのかしら」
「とんでもない! 貴女なら、そう言ってくださると信じていましたとも。ただ、陛下がお許しにならないだろうと思っていたものですから」
……それは否定できない。もしあたしが光魔法しか使えないようなら、恐らく留守番をする羽目になっていただろうし。
結界を予めかけておくことは受け入れてくれたろうが、カーティスを迎え撃つ段では元の計画と同様、一人で行おうとするだろう。
それを止めるべく、二人は残ってくれていたというわけだ。




