第七十二話 聖女は勇者を嫌悪する
「俺の国を脅かした責任は取っていただきますよ──義兄上」
そう言って、レオンは倒れたカーティスのもとへ足を踏み出した。
彼は歩みを進めながら、その手元に小さな裂け目を作り出す。何かを取り出しているんだろう。
この魔法、便利よね。
その分、魔力の消費が激しいといったデメリットがあったりするのだろうか。一段落した後に聞いてみようと思う。
閑話休題。レオンが裂け目から取り出したのは、手錠だった。どこか見覚えのある色のそれに、首をかしげる。
あたしが記憶を探る中、彼は淡々と手の中のそれをカーティスに装着した。その瞬間。
「っ、!?ぁ、レナード、おまえ」
恐怖に濡れた、弱々しいカーティスの声が聞こえた。こんな彼の声色、聞いたことがない。思わず己の耳を疑った。
二人を凝視するあたしに、レオンは語る。
「この手錠は、装着した者の体内を巡る魔力の流れを、大きく遅延させる効果を持っている。分かりやすく言えば、魔法を封じることができるものだ。お前に付けていた腕輪と、ほぼ同様の魔道具だな」
なるほど、道理で見覚えがあるわけだ。しかし、それにしては。
「あたしがあれを付けてたとき、魔力の流れが遅いってこと以外に大した効果はなかったと思うんだけど……こいつはどうしてこんな風になってるわけ?」
未だ、己の体躯を抱きしめて震えているカーティスを指して問えば、レオンはそういえば、とでも言いたげな表情を浮かべた。
「まだ、俺が魔王になった経緯を話していなかったな。端的に言えば、俺はこの男に国境の森へ放置されていたところを、先代に拾われたんだ──エラ、まだ話は終わっていない。それに追加で魔法を打ち込めば、いよいよこいつは死にかねん」
「……わかったわよ」
カーティスの頭上に降らせる予定だった氷塊を消して、あたしは渋々頷いた。
レオンがこいつを生かすと言うのなら、それに従わない理由はない。あたしの一時の感情で、彼の計画をぶち壊すのは先刻の騒動だけで十分だ。
あたしが矛を収めたのを確認してから、レオンは続きを口にする。
「国境へ連れられて行く際に、装着された魔道具がある。それが、この手錠や腕輪の改良前の代物だ」
「改良前……魔力の流れを止めてしまうものだった、なんて言わないわよね」
なんとなく、事の全貌が見えてきた。いや、推測通りであってほしくはないのだけど。
しかしあたしの願いも虚しく、レオンは首を縦に振って言った。
「察しが良いな。その通りだ」
……情報を更新しようと思う。カーティスという人間の性根は、あたしが思っていた以上に、ずっとねじ曲がっていたらしい。




