第七十話 聖女は一行を無力化する
「僕の髪があああああああああああああああああっ!」
ついさっき聞いたばかりの叫びがこだまする中、あたしも二度目の舌打ちをする。
カーティスの仲間の青年による結界の展開は、今回も微妙に間に合わず、奴の髪は焦げた。
流石に毛根までは届いていないはずだから、彼の髪は時間がきっと解決してくれるだろう。多分。
なお、件の青年は瞬間的に結界を二度も作る羽目になったせいで、既に床に倒れ伏しており、神官の少女から治癒を施されていた。
カーティスが心配すべきなのは、己の髪ではなく仲間の方だと思う。
まあ、魔法二発で向こうの戦力を削れたのだから、こちらとしてはラッキーなだけなんだけど。
どこか他人事のようにそんなことを考えていれば、ふと、上方にそれなりに強い魔力の波を感じた。
レオンとあたしの頭上に結界を張ろうとしたのも束の間、その気配はあっけなく霧散してしまう。
何だったのだろうと首をかしげたけれど、その正体はすぐに判明した。
「……、ぐぅっ」
呻き声とともに、大きめのローブを羽織った女性が崩れ落ちるのが視界に入る。
服装に見覚えはないけれど、その手に握られた杖──原因は知らないけど今は折れている──から推測するに、魔導士なんだろう。
ちら、と横に立つレオンに視線を遣れば、彼も同じようにこちらへ顔を向けていたようで、ぱちりと視線が合った。
「大丈夫か?」
一瞬首をかしげたあたしは、しかしすぐに思い至って頷いた。
「問題ないわ。ありがとう」
魔導士の彼女は恐らく、埒が明かないと判断してこちらへ仕掛けたのだろう。
結界師は倒れ、神官は戦闘技能に乏しいうえに彼の介抱に専念しており、頼りの勇者は己の髪の無残な姿に慟哭しているこの状況では、確かに、動ける彼女が動かなければどうしようもない。
まあ、放った魔法はレオンに跳ね返されてしまったわけだけど。
返ってきた魔法で、彼女はかなりの痛手を負ったようで、結界師の治癒を粗方終えたらしい神官が足早に魔導士へと向かうのが見えた。
その距離が一定まで近づいた瞬間、あたしは二人を覆う結界を築く。
外側から内側への干渉はもちろん、逆もできないように調整してある。とりあえず、そこの勇者をどうにかするまでは中にいてもらおう。
少し離れた場所で倒れていたはずの結界師へと目を向ければ、彼は忽然と姿を消していた。
ただ、レオンが影移動の際に使っている裂け目がそこにあったので、彼によってどこかしらに転移させられたのか、はたまた影の中に閉じ込められるかしたのだろう。仕事が早くてとてもありがたい。
それじゃ、あとはカーティスだけね。
彼の方を向いて、あたしは口を開く。




