第六十九話 聖女は勇者に炎を放つ
絶叫するカーティスの周囲では、魔力の欠片と思しき光の粒が、はらはらと崩れて消えてゆく。
恐らく、彼ら一行を半円状に覆っていた結界があったのだろう。衝撃を防ぐことには成功したものの、耐え切れずに壊れてしまったようだが。
彼の仲間の一人に、ぜえぜえと呼吸を荒げている青年がいるので、寸前で彼が張ったものだろうと推測する。
しかし、発動がほんの少しだけ間に合わず、僅かに混入した雷魔法でカーティスの髪がパーマに変化するに至った、といったところか。
ここまで説明しておいて、我ながら意味が分からない。雷魔法で髪をパーマにするなんて見たことも聞いたこともないんだけど。
とはいえ、目の前にそれができたというか、できてしまった人がいるわけで。
想定外の出来事に、内心混乱していれば、プルプルと小刻みに震えていたカーティスが唐突に、レオンを指さして叫んだ。
「おのれ、レナード! 戦意を喪失させるところから始めるとは……陰湿なお前らしい」
「いや、今のはあたしの魔法なんだけど。それに、陰湿なのはアナタの方でしょうが」
いけない、素が出た。
よく考えたら、聖女が光魔法以外の魔法を扱うなんて有り得ないんだし、レオンの魔法だと判断するのが普通ではあるか。
一行から驚愕の視線を受けながら、一人で納得する。
「──聖女、さま?」
神官の──それも普通の教会のものではなく、神殿勤めの者専用のそれだ──衣装を身にまとった少女が、呆然とした声色で呟く。
なんとなく、見覚えがあるような気がするから、多分神殿ですれ違ったことがあるんだろう。
彼女を軽く一瞥したあたしは視線をカーティスの方へと戻し、再度口を開く。
「今すぐに抵抗をやめて侵略も諦めると誓うなら、命だけは助けてやっても良いけど」
我ながら、魔王じみた台詞だこと。当の本人ことレオンは、絶対にこんなことは言わないだろうけど……というか彼、カーティスたちが来てから一言も喋ってないわね。
必要があれば口を開くだろうし、特段気にすることでもないけど。
あたしの言葉に、口を開いたり閉じたりを繰り返していたカーティスはというと、突然、何かに気づいたのか、弾かれたように言う。
「──はっ、そうか、こいつに洗脳されているんだね、エラ。慣れない雷魔法まで使わせられて……ほんの少しだけ待っていてくれ、今すぐこの魔王を倒して君を元にもど、」
どかーん。
二度目の轟音が、広間の中で反響した。焦げ臭い煙が、周囲を包む。
あたしの炎魔法が、カーティスに向かって放たれたせいだ。




