第六十八話 聖女は勇者に雷を落とす
「聖女様、すぐに助けて差し上げます!」
だの、
「共に国へ帰りましょう!」
だの、
「ご安心を、我々が来たからには、貴女に指一本触れさせません!」
だの、ごちゃごちゃ叫んでいる。
最後に至っては、今あたしたちが手をつないでいるところが見えていないのだろうか。
言葉を返すことすら馬鹿らしくて口をつぐんでいれば、カーティスが再び口を開いた。
「待て。お前、見覚えがあるぞ……まさか、レナードか!?」
……随分遅くないかしら。
三年会っていないからといって、度々顔を合わせていた相手のことを、こんなにあっさりと忘れることができるのね。
苛立ちと呆れが半々といったあたしの心情は、次の彼の言葉で一気に怒りへと傾いた。
「人間をやめてまで生に縋るなど、何と生き汚い。今度こそ、お前の息の根を俺の手で、」
瞬間、紫色の光が広間を包んだ。続いて、雷の轟く音が響き渡る。
あたしの紫電が、カーティスの頭上に落ちたのだ。
何の前触れもなく発動した理由は単純、考えるよりも先に体が動いていたからだ。
レオンの失踪に、こいつが嚙んでいたであろうことは分かっていた。
けれど彼の口ぶりからして、どうやらこの男は、レオンを殺そうとまでしていたようだ。
それを理解した途端、頭にカッと血が上って、次に理性を取り戻したときには魔法を発動した後だった。
……流石に、まずかったかしら。
もう少し探りを入れるつもりではあったのだけど、あまりにも腹立たしかったもので。
まあ、どうせ後でやり合うんだし、良いわよね。
あの魔法は見た目と音こそ派手だったけど、死ぬほどの痛手は負わせていないはず。
まあ、これで倒せたならそれはそれで──
「はあ、はあ……不意打ちとは卑怯だぞ」
「……ちっ」
ほら、やっぱり。
案の定、倒れていた──というより伏せていたらしいカーティスが、そんな恨み言を口にしながら身体を起こした。
予想通りの反面、ここで気絶したままでいてくれたら楽だったのに、と強く思う。
冷めた目で彼を一瞥したあたしは、しかし次の瞬間、不覚にも目を見開いて固まってしまった。
あたしだけでなく、レオンやカーティスの仲間までもが彼の──更に正確に言えば、その頭部へと熱い視線を向けている。
不審に思ったらしい彼は、意図せず集まった注目の原因を知るべく、己の手を頭上に当てた。そして、知ってしまった。
「僕の……僕の髪があああああああああああああああああっ!?」
哀れ、緩くウェーブを描いていた彼の金髪は、くるくると細かく縮れ、さながら鳥の巣のような見目になり果てていることを。




