第六十七話 聖女は勇者の正体を知る
魔王城の広間に着いたあたしは、室内に軽く細工を施した。もちろん、レオンの許可は取ってある。
移動中に、彼ら一行の特性について簡単な説明は受けたから、その対処のためだ。引っかかってくれるかは分からないけど、ないよりずっといい。
最悪、二人でなら力業でどうにかすることもできるだろうしね。
細工を終えてしばらく待っていると、やがて数人程度の魔力の気配がし始めた。
「来たわね」
あたしの呟きに、彼が一つ頷いたのを横目で確認した次の瞬間、
「……あら?」
どこか、覚えのある気配にあたしは首をかしげた。
「どうかしたか?」
「近づいてきてる魔力、何だか知っている気がするのよね……勇者一行の中に、あたしの知っている人でも選ばれたのかしら?」
集団の気配はどんどん近づいてくるけれど、中々思い出せそうにない。
こう、そこはかとなく感じる不快感は、絶対に体感したことがあるはずなんだけど。
記憶を探って小さく唸るあたしに、彼は目をぱちくりとさせて言う。
「言っていなかったか。今代の勇者は──」
彼の話の途中で、扉が大きな音を立てて開かれた。マナーも何もあったものじゃない。
反射的に顔を顰めた顔は、その一拍後、驚愕のそれに変化する。
「カーティス!?」
ひどく驚くと同時に、納得もする。
道理で、覚えがあって不快感がするわけよね……レオンが魔王になったときほどじゃないけど、少し変化しているみたい。
レオンの方は、魔力が以前と異なっていてもすぐに気づいたのに、カーティスは顔を見るまで分からなかったことに関しては、面目ないと言うほかない。
言い訳をさせてもらうと、あたしはレオンを探すことだけを考えてこの三年を過ごしてきたから、無意識に人の魔力を彼か、彼以外かで判断する癖がある。
彼に関係のない魔力の特徴を覚える必要なんて感じなかったし、ましてやカーティスのものとなれば感知することすら嫌だったと言ってもいい。
それでも、かなり強大な魔力を有していたことは覚えている。
そういえば前、レオンに対抗できる可能性がある人間は、カーティスくらいじゃないかと思ったりもしていたけれど、まさか本当に彼が勇者になるとは。
似合わない……いや、その本質を思えばお似合いかしら。
あちらに行ったり、こちらに戻ったり、せわしなく巡る思考はしかし、カーティスの言葉によって中断させられた。
「! エラ、待たせてすまない! あと少しの辛抱だ」
……あたし、何の拘束もされてないんだけどな。
自分の意志でこの場所にいることは明白だと思うのだけど、彼の目はどうやら節穴らしい。いや、節穴なのは元からだったか。
しかし先入観というのは恐ろしいもので、カーティスの仲間たちは彼に続いて、次々と声を上げ始めた。




