第六十六話 聖女は魔王と共に行く
「アナタのお眼鏡に叶ったようで何よりよ。それじゃ、連れて行ってくれるわよね?」
というか、多少暴れてでも一緒に行くつもりではあるのだけど。
でも、それで魔力を無駄に消費するのは避けたいから、なるべく説得して合意を得たいのだ。
しかし、レオンはまだ納得してくれていないらしい。眉間に深い皺を刻んだ彼は、ぼそぼそと言葉を口にする。
「確かに、お前の魔法の腕はもはや疑いようもない。だが……」
「でも、アナタ一人だと死にかねないんでしょ? どうせ、あたし以外の部下にはとっくに計画を伝えているんだろうから、忠実な彼らは避難を終えた頃合いなんじゃないかしら。あたしが着いて行くのがいちばん得策だと思うけど」
顔を顰めた彼から、反論の言葉は返ってこない。ここまで来たら、あとひと押しだ。
「それとも何? せっかく両想いになったってのに、まだ死にたいわけ? 勇者と刺し違えてでも? せっかく手に入れたあたしを、また手放してでも?」
「っ、!」
語気を荒げたあたしに、レオンは押し黙ってしまった。
しばらくの間、難しい顔をして思案していたらしい彼はやがて、ゆっくりと首を縦に振った。
「……分かった。だが、約束してくれ。絶対に俺の前には出るな」
……それ、かなり有りなのでは?
向こうは、あたしが被弾してしまう可能性がある以上、下手に攻撃を加えることができないだろうから、有利に事を運びやすくなるはずだ。
というか、人質の扱いとしてこの上なく当然の流れのような気もするんだけど。
そんな思考をうっかり顔に出してしまっていたのだろうか。あたしをじっと見つめていたレオンは、大きなため息を吐いた。
「駄目だと言っている」
「……分かったわ」
仕方がない、ここでごねて一緒に行けなくなる方が問題だ。
そう、強引に自分を納得させたあたしは笑顔を浮かべて口を開く。
「じゃあ、決まりね。あたしたちの蜜月をぶち壊しに来た邪魔者を追っ払いに行きましょ!」
あたしの言葉に、彼は口元をほころばせた。
晴れやかなその笑みは、何だかとても久しぶりに見た気がする。
「そうだな──さあ、着いて来てくれ」
レオンが踵を返して扉の方へ歩き出したので、あたしもその後を追う。
もっと速く歩けるだろうに、あたしを気遣ってか、ゆっくりと進んでくれる彼に、胸がじわりと温かくなった。
廊下をてくてくと歩いていくうち、ふと、悪戯心が顔をのぞかせる。
足を速めてレオンの真後ろに移動したあたしは、彼の右手をそっと握った。
ピタリと立ち止まり、こちらを凝視するレオンに、にんまりと笑って見せれば、彼は慌てて明後日の方向を向いて、再度歩き出す。
繋いだ手が振りほどかれることはなかった。そのことが、思っていたよりも嬉しかった。




