第六十四話 聖女は邪魔者を思い出す
「ごめんね、急に泣いたりして。多分……嬉しすぎたのよ」
レオンの腕の中に収まったまま、そう口にする。
あたしの言葉に、彼は穏やかな口調でこう返した。
「構わない。俺も、同じだから」
「ふふ、それもそうね」
そう笑い合ってから、レオンはそういえば、と前置きを口にした。
頷いて続きを促せば、ほんの少し言いづらそうにしながらも、彼は言葉を紡ぎ出す。
「いつ、俺が『レオン』だと気づいたんだ」
そういえば、まだ何も話してなかったわね。
感動の再開で、すっかり失念していた。
「そうね──最初からよ」
「……最初から?」
困惑を多分に含んだ声に、肯定の言葉を返せば、彼は片腕をあたしの背中から外して頭を抱えてしまった。
くすくすと笑いながら、あたしは続きを口にする。
「言っていなかったと思うけど、あたし、魔力で人を特定できるのよ。それで、気づけたの」
「探知魔法でも、学んだのか。俺の記憶では、昔のお前は光魔法以外を学ぼうとしたものの、神官に菓子を人質に取られて諦めていたはずだが」
「よく覚えてるわね……半分正解よ。正確に言うと、もともと魔力の察知能力が他の人より高い状態だったのよ。光魔法のおまけの効果でね。探知魔法は、アナタがいなくなってから覚えたわ」
その意図を正しく理解したらしいレオンは、変な声で呻いた。
辛うじて視界に映る耳はほんのりと色づいていて、彼が照れているらしいことを示している。
それはすなわち、彼が赤面していることと同義だ。
そんなの、見たいに決まっている。
抱きしめられているこの体制では叶わないので、さり気なく腕を解くよう促した。
しかし気に入らなかったのか、レオンはそれを無視して、より腕の力を強めてしまう。
──まあ、良いか。
それはそれで、悪い気はしない。
彼の照れた顔を拝むのは、また別の機会にとっておこう。
そう、自分に言い聞かせたところで、あたしはすっかり忘れていた人物のことを思い出した。
「ねえ、レオン。アナタがここに来たってことは、勇者はかなり近付いているってことよね」
「ああ。計算では、あと半日ほどで魔王城に着くはずだ」
せっかくレオンと心が通じ合ったところだってのに、すぐに邪魔が入るなんて。
顔も見たことのない勇者とその仲間たちに、内心舌打ちをする。
空気を読まずに乗り込んでくるらしい彼らには、灸を据えてやらなければ。
「わかったわ、急いで魔王城へ向かいましょ。半日なら、歩いたって間に合うはずよね? アナタの魔法で影を移動しても良いけど、魔力は温存しておくに越したことはないし」




