第六十三話 聖女は幸せを噛みしめる
我ながら、滅茶苦茶な告白だったと思う。
どこの世界に、相手をビンタしてから愛を叫ぶ女がいるのだ。ここにいるけど。
でも、許せなかったのだ。
向こうの都合であたしを閉じ込めておいて、それなのにいざとなったら解放するなんて。
……あたしは、あたしの意思で捕まってやっていたというのに。
もちろん、レオンはそんなあたしの思いなんて知らないから、この点に関しては完全に八つ当たりだ。それでも、ムカつくものはムカつく。
結局のところあたしは、彼が勝手にこちらを手放そうとしていることが許しがたかったのだ。
茶会での様子や、それ以前に感じた視線を思えば、レオンがあたしと同じ気持ちだってことぐらい、すぐに分かった。
彼が「レオン」だと気づいているということを含めて、それを口に出そうとしなかったのは、ずっとタイミングを計っていたからだ。
彼の計画の全てを知らないあたしが下手に動いて、それをかき乱してしまうのは本意ではなかったので。
ああもう、こんなはずじゃなかったってのに。
大体、レオンが自分は死ぬからお前は生きろ、みたいなこと言うのが悪いのよ。
それら、現実逃避じみた考えは次の瞬間、あっけなく吹き飛んだ。
レオンが、あたしを抱きしめたのだ。
身体に巻き付けられた腕の力はとても強くて、それでいて加減をしようと努力しているのであろう意志が垣間見える。
それが、たまらなく愛おしい。
「俺も……俺も、ずっとっ……ずっと、エラを」
堪らずその背中に腕を回せば、彼は一瞬硬直した後に、再度己のそれに力を込めた。
恐らく無意識であろうその動きが、あたしの胸の奥をやわらかにくすぐる。
肩口に湿った感覚がして、彼が涙を流していることを察した。
その理由に首をかしげるほど、あたしは鈍感じゃない。
「愛してる」
少し間を置いてから、彼ははっきりとそう言った。
知ってる、とにやりと笑って返してやるつもりだったのに、どうしてか言葉が喉にひっかかって上手く出てこない。
おかしい、と思った矢先、レオンが顔面を蒼白にして腕の力を緩めた。
疑問に思ってその視線を辿れば、彼があたしの目元を凝視していることに気づく。
何の気なしに手を触れさせれば、生ぬるい雫が指先に付着した。
あたし、泣いてるわけ?
感極まって泣くなんてこと、本当にあるものなのね。それとも、もらい泣きってやつ?
どこか他人事のようにそんなことを考えたところで、はたとレオンの様子が変化した理由に思い至る。
──告白した相手に泣かれたら、そりゃあそんな顔になるわよね。
不可抗力とはいえ、申し訳ないことをした。
慌ててその体躯を強く抱きしめ直せば、安堵した様子で息を吐く音が振ってくる。
例えるものが思いつかないくらい、幸せだった。




