第六十一話 魔王は計画を吐露する
sideレオン
久しぶりに訪れた彼女の部屋は、いつにも増して美しく整えられているようだった。
しかしその一方で、前回よりも物が減ってもいる。
カミラを通して伝えたように、ある程度荷物をまとめた後なのだろう。
勧められた茶を飲みながら、現実逃避のようなことを考える。
エラに全てを話すと決めたはずなのに、いざ言葉にしようとすると、喉につかえて上手く出てこない。
「あ、その……だ、な……」
どうにか口に出そうとしても、この有様だ。不甲斐ないことこの上ない。
こちらの言葉を待っていてくれた彼女はしかし、そんな俺の背を押すように、
「何か?」
穏やかに、そう聞き返してくれた。だというのに。
「……いや、良い」
そう、取り下げてしまう。自身の失態を赤裸々に告白することも、その上で新たな提案をすることも、どうしようもなく恐ろしいのだ。
それでも、カミラやデクスターには、羞恥や無念といった感情こそあれど、これほど言い出すことができない、などということはなかったのに。
内心で頭を抱える俺に、彼女はいつも通りの笑顔を向けた。
「何か言いたいことがあるんでしょ? 聞いてあげる」
痺れを切らしたのだろう。直接的な言葉を使って、話すよう促される。
そう言われては、こちらも腹を括るほかない。口を何度か開閉させた後、ひとつひとつ、言葉を紡ぎ出す。
「カミラから、勇者が魔王城へ乗り込もうとしていることは聞いているだろう。俺が、有効な手段を講じることが叶わなかったことも。──つまり、お前を人質に魔界を守るという俺の稚拙な作戦は、見事に失敗したというわけだ」
努めて淡々と、説明をする。細心の注意を払っていなければ、声が震えてしまいそうだった。
それに意識を割いていた俺は、エラの顔に浮かんでいた表情に気づくのが遅れてしまったらしい。
「あたしは用済みだって言いたいの?」
俺の発言に割り込むような形で、刺々しい声色の言葉が浴びせられる。
彼女と再開して以来、こんな声を聞いたのは初めてだった。だが、全く覚えがないわけではない。
最後に聞いたのは、確か──
俺のために、カーティスを怒鳴りつけたときだったか。
あのときの怒りほどではないにしろ、似たような感情が、今は俺に向けられていると思うと、思いの外気分が沈んだ。
それを何とか飲み込んで、再度口を開く。
「最後まで聞いてくれ。お前のことは以前、調べさせてもらった。置かれていた状況もある程度は把握しているつもりだ。──だから。だから俺は、何があろうとも勇者を殺す」
早口でそう告げた言葉に、エラはひどく顔を顰めた。
「まるで、アナタも死ぬみたいな言い方ね」
──やはり彼女は、理解が早い。
どう切り出したものか、未だに悩んでいたものだったから、察してくれたことにほんの少し、安堵の思いが芽生える。
「違いない」
はっきりと肯定を示した俺に、彼女は唇を戦慄かせたように見えた。




