第五十八話 魔王は己を嘲笑う
寝室に戻った俺は、半ば倒れるようにしてベッドへ仰向けに転がった。
目を閉じてすぐに、先ほどのデクスターの言葉が頭に浮かぶ。
「……悪いな、俺の我儘に付き合わせて」
そうひとりごちた後、自然と自嘲がこぼれた。
聖女を人質に取り、魔界への手出しを抑制していられる間に、より強固な結界を築くという、己の計画は。
──甘かったな。
元来、魔族は結界の展開や治癒を施すことといった、光魔法に近い系統の術が不得手だ。その分攻撃性に富む傾向がある。
勇者による侵攻を阻めないのは、これが理由だ。
国境の結界は人間によって張られたものであるゆえ、彼らが突破する分には何の支障もない。
なお、魔族の側からしても、あの程度の強度であれば壊すのは容易だ。もちろん、魔族の中でも弱い者には難題になり得るだろうが。
だが現に、物好きな魔族は結界の一部に穴を開け、あちらに出向くこともあるらしい。
そんな、双方ともに大した意味を持たない結界が壊されていないのは、単にほとんどの魔族が向こうに興味を持っていないからだ。
そのことを知るすべは、今のとこ人間側にはない。無論、知らせてやるつもりも義理もない。
話が少し逸れた。つまるところ、勇者による侵攻を止めるという目標を達成するためには最終的に、彼らの行く手を閉ざす強固な結界を築く必要があるのだ。
俺は元が人間だということもあり、他の魔族と比べて結界を張るのは得意な方だ。しかし俺も多くの魔族と同様、攻撃性の高い魔法の方がずっと扱いやすい。
当然、エラには遠く及ばないだろうし、人間の使い手の一部にもきっと、腕前は劣っている。
だが時間さえあれば、他の魔族へコツを教え、全体的にその精度を高めることも、補助のための魔導具を開発することもできるはずだ。
しかし、魔族側が結界を築こうとしていることに勘付かれては厄介だ。
問題の責をこちらに押し付けることが困難になる王族は、何かしらの理由を付けて妨害してくるだろう。
その手出しを防ぐため、エラを人質として連れ去ることで牽制をしたわけだが。
「──いや、言い訳だな」
結局のところ、俺は彼女を手に入れたかっただけなのだ。
抵抗虚しく散ってゆく、弱い魔族を取りこぼすようなことをしたくはないと願ったのは事実だが、それを建前に、俺は己の欲望を満たす計画を練った。
それが失敗した今、俺には責任を負う必要がある。
一番簡単な方法は、エラを勇者に──カーティスに引き渡すことだろう。
しかし、それは。それだけは、したくなかった。




