第五十六話 聖女は現状に頭を抱える
「承知いたしました。詳細は伏せさせていただきますが……丁度、お伝えしなければならなかったこともございますし」
「ありがとう、カミラ」
深く頭を下げてそう言えば、顔を上げるよう促される。素直に従ったあたしに、彼女は語り始めた。
「当代の勇者は、尋常でない速度で侵攻を進めています。これは、陛下が彼ら一行の経路を推測し、周辺で活動を行っている魔族へ無暗に戦闘を仕掛けないよう通告を出している、というのも理由の一つではありますが」
「それを加味しても、彼らの勢いは異常なのね?」
あたしの言葉に首肯を返したカミラは、さらにこう続ける。
「加えて、彼らは歴代の勇者たちとは異なり、一直線に魔王城を目指しているようです。通常は陛下に加えて、他の高名な魔族へも狙いを定め、そちらを先に倒そうとすることが多いのですが」
彼女が口にした内容には、心当たりがあった。大きなため息がこぼれる。
「多分、彼らの目的があたしだからでしょうね。災厄の解決のため、みたいな幻想を掲げるんなら、戦果はあるに越したことがないけど、今回はあたしを連れ戻せたらそれで良いんだもの」
完全に、あたしの存在が裏目に出ている。
向こうの王の性格を思えば、あたしを人質にすることにしたレオンの判断は間違っていなかったと思うんだけど……まあ、その結果が今なのだから、そんな話をしていても意味はない。
まったく、あたしを連れ戻すために勇者を選ぶべきだなんて、愚かな主張したのはどこの誰よ。
脳内でぶつぶつと文句を並べながらも、あたしはこう付け加える。
「それでいて、勇者一行にはかなりの実力も保持してる。そうでしょ? だって、ただ無謀な侵攻を行ってるってだけなら、魔王自身が出向いて解決できるもの」
「その通りです。勢いもさることながら、短期間における実力の伸び幅が非常に大きいことから、陛下は、彼らへ安易に手を出すべきではないと判断されました。今は、その動向を探ることに注力されています」
賢明だ。もどかしい思いをしているだろうに、と勝手に想像してみる。
「今のところ、判明している大まかな状況は以上です。そして、お伝えしなければならないことなのですが」
「そういえば、最初に言ってたわね。何?」
「万が一、勇者の魔王城への侵入を許してしまった場合に備えて、お荷物をまとめさせていただきます。持ち出したいものがあれば、早いうちにおっしゃってください。何があろうと、あなた様を勇者の手に渡すわけには参りませんから」
魔族側としては、勇者の戦力がこれ以上増強されるのはたまったものではないだろう。あたしとしても、向こうに戻りたくはないので、正直助かる。
「ええ、分かったわ。後で簡単に整理しておくわね」
あたしの返答に、彼女はどこか複雑な表情で頷いた。




