第五十五話 聖女はもどかしさに歯噛みする
ああもう、せっかく昔みたいな雰囲気で話せるようになってきたってのに!
レオンが帰った後もずっと、あたしは顔も知らない勇者へ腹を立てていた。あのまま少しずつ距離を縮めて、十分信頼を稼いだところで、彼が「レオン」だということに気づいていたと、カミングアウトするつもりだったというのに。
まあ、実行不可能となった計画を思い返していても仕方がない。かといって、他にすることもないので、最後に彼と会ったあのお茶会での会話をぼんやりと思い出してみる。
──レオンにはやるべきことに専念して、なんて言ったけど、ちょっと心配だわ。勇者が敗れた話こそ存在するけど、数は少ないし。
……いや、記録から消された敗北の可能性を考慮すれば、もっと沢山あるのかもしれないけど。
だが少なくとも、これまでに数多くの勇者が勝利を収めてきたことは間違いない。
まあ、レオンが負けるとは思っていないけど。
あたしは、相手の魔力からその強さを何となく推定できるけど、彼のそれは群を抜いている。間違いなく、今まであたしが出会ってきた人間や魔族──こっちは母数が少ないけど──の中で、レオンは間違いなく一番強い。
魔族の中で最も強い者が魔王になるというのだから、当然と言えば当然だ。
だが、仮にその実力をひっくり返す可能性がある者がいるとすれば。
「カーティスなら、あり得るかしら」
ポツリと、あまり思い出したくはなかった名前を呟く。
少し、いやかなり癪だけど、彼の魔力から読み取れる潜在能力には目を見張るものがあった。
あのままでは、到底レオンには叶わないだろうけど……いや、考えても詮無いことだ。
今あたしにできることは、彼の邪魔をしないよう、静観していることだけなのだから。
魔力が解放されさえすればそれなりの戦力になれるとは思うのだが、「攫われてきた聖女」という立場では、レオンに協力する合理的な理由がない。
いや、理由がないどころか怪しまれるだけだ。だからそれを申し出るわけにはいかないのだけど。
「……もどかしいわね」
どうしたって、そう感じてしまう。
悶々としながら、それから数日を過ごしたあたしはしかし、とうとう耐えきれなくなった。
「カミラ、教えてほしいことがあるの」
意を決したあたしは、彼女にそう声をかけた。
「はい、何でしょうか?」
緊張で強張っているであろうあたしの表情を見ても、カミラは顔色一つ変えることなく、いつも通りの声色でそう返してくれる。
それに内心で礼を言いつつ、口を開いた。
「勇者の侵攻状況を、教えてくれないかしら」
「……それは」
「ごめんなさい、こんなこと聞いて。疑って当然よ。でも、当事者のあたしが蚊帳の外なんて、我慢ならなくて」
あたしの訴えに、彼女は少し考えた後、軽く目を細めて笑った。




