第五十二話 聖女は焦燥に身を焦がす
その日以降、あたしたちは定期的に一緒にお茶を飲む仲になった。戻ったと評するべきか迷ったけど、あのときは二人で同じ時間を過ごすのに「お茶会」という名前をつける必要はなかったし。
そう考えると少し寂しい気もするけれど、それは贅沢というものだろう。人質という立場であるにも関わらず、のびのびと暮らせるよう配慮されているのはひしひしと感じている。
そして、何より。
──レオンと、会えるんだもの。
彼が消えた三年間で、二人で過ごしたどれほどかけがえのないものだったのかは痛感させられた。それを思えば、今の状況は破格と言っても過言じゃない。
それなのに、昔よりも遠ざかってしまった距離に抱く焦燥を拭えないあたり、あたしは本当に欲深い。
「どうした? 先ほどから上の空のようだが」
自嘲めいた方向に向かう思考にぼんやりと浸っていれば、レオンからそう声をかけられた。その手元に目を向ければ、指で机の上をゆっくりと、しかし何度か叩いているのに気づく。
懐かしさに目を細めたあたしはしかし、すぐに気遣わしげな色の乗ったその言葉へ、ぶんぶんと首を横に振った。
「ううん、考え事をしてただけ。それより、アナタこそどうかしたの? 何か言いたいことがありそうだけど」
「……何故分かった」
本気で困惑している様子の彼に、ふふんと胸を張って見せる。
「見てれば分かるわ。アナタ、言いづらいことを話す前の癖があるでしょ」
「そうなのか」
大きな反応こそ返さなかったけど、彼の様子を見るに、どうやら本気で気づいていなかったらしい。
三年前から変わってない癖なのに……以外だわ。
教えてあげようかと口を開きかけて、やめる。
「そうよ。でも、あっさり教えちゃうのはつまらないから、秘密」
目いっぱい悪い顔で笑ってやれば、レオンは憮然とした様子で押し黙った。
一方的に情報を握られているのは癪だが、別段大きな害があるものでもないか、とでも考えているのだろうか。
それもあって、あたしは必要に迫られない限り、このことを彼に教えるつもりはない。
つまらない、というのも噓ではない。だけど、それだけでもない。
だってこれは、せっかくのあたしだけが知っているレオンの姿なのだ。
昔の彼はともかく、今のレオンのことは知らないことの方が多い。カミラやデクスターの方が、ずっとよく知っているだろう。
それどころか、重ねた年月の長さすら、あたしはあの二人をはじめとした魔族たちに叶わない。
だけど、あたしに気を遣ってか、何と言葉にしようか迷う彼の姿は多分、あたししか知らないはずだ。
これを独り占めしたいと思うくらい、許してほしい。
そんなことを考えていたあたしに、レオンはゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。




