第五十一話 聖女は魔王に教えを請う
結局、無難なお茶とお菓子を用意して、あたしはレオンを出迎えた。互いに、前回と同じ場所へ腰を下ろしてすぐに、口火を切る。
「来てくれてありがとう。早速だけど、聞きたいことがあるの」
レオンはコクリと頷いて言葉を返す。
「ああ、構わない。答えられる範囲で答えよう」
彼の知っている範囲、かつ漏れても問題ないところまで、という意味だろう。問題ない。
レオンの邪魔をしたくはないし、変に機密を知ってしまって面倒なことに巻き込まれたくないしね。
「ありがとう。基本の基本からで申し訳ないんだけど……作者について教えてほしいのよ」
心なしか、きょとんとした顔でこちらを見つめる彼に、こう付け加える。
「信用できるのかって話よ──勘違いしないでほしいんだけど、アナタが用意してくれた本だから不信感がある、なんてことを言いたいんじゃないわ」
言葉の途中で、仮面越しでもわかるほどあからさまに表情を曇らせた彼に、そう前置きをしておいた。
安心したのか、何事もなかったかのように元に戻ったレオンの様子に、むずがゆいような感情が湧く。
……可愛いわね。
口元をちいさくほころばせつつ、あたしは続ける。
「向こうの本だったら知っている著者が多いし、知らなくても、書いてあることがそれくらい誇張されているかは──少なくとも人間側の基準でだけど──わかるわ。そもそも向こうにいたころは、著者について調べるのも難しくなかったしね。でも魔界のになると、それがさっぱりなのよ」
ティーカップを手に取って、ぬるくなってしまった中身を口に含む。このお茶は魔界のものだけど、カップに絵付けされているものとは異なり、花も実も食べられる。でも両方大して美味しくない。
ただ、花は綺麗な見た目をしているから、砂糖漬けにされたものがよく売られているそうだ。
カミラが用意してくれたお菓子こと、マカロンの上に飾られているものがまさにそれ、とのことらしい。
というよりも、お茶に合わせて用意してくれたんだろう。既によく知っていることではあるが、やっぱり彼女のセンスは良い。
少々思考が脱線しているあたしに、レオンは尋ねた。
「要するに、俺の用意した本の著者の立場や考え方を把握することで、内容がどれほど信用に足るか、はたまたどのような視点から記されているのかを推測したいということか?」
「そういうこと。簡単な説明で良いんだけど、どう?」
恐らく大丈夫だろうとは思っているけど、正直、どこまでが「漏れても問題ない範囲」なのかは判断できない。
だから少しだけ緊張していたのだけど。
「問題ない」
どうやら、杞憂だったらしい。小さな笑みを浮かべてそう言ってくれた彼に、ほっと息を吐く。
「やった! じゃあ、この本からね。この作者は──」
「ああ、彼女は──」
すぐそばに積んでおいた本の、一番上のものを手に取って彼に渡し、解説を聞く。
何だか昔とよく似たその時間は、穏やかに過ぎていった。




