第四十九話 聖女は安堵する
「あたしは、客観的な事実を知りたいの。人間に伝わる話じゃどうしたって、同族に肩入れするものになっちゃうでしょ?」
「それは、こちらにも言えることではありませんか?」
納得していなさそうな彼に、あたしは頷いてこう返す。
「そうね、だから鵜呑みにするつもりはないわ。ただ、アナタたちの視点でどういう出来事だったかを知ることには、大きな意味があるはず。違う?」
そして、答え合わせがしたいのだ。あの日、あたしたちが至った結論の。
カミラとの会話で既に確信を得た後とはいえ、情報源は多ければ多いほどいい。
そんなことを考えるあたしに、デクスターは表情を少し緩めてみせた。
「まったくもって、その通りです。貴女は……」
「あたしが、何?」
濁された言葉の続きを促せば、彼はひと呼吸置いて口を開いた。
「いえ、陛下と同じことをおっしゃるのだなと」
思わず、瞠目させられた。少し、声が震えそうになるのを何とか堪えてあたしは言う。
「魔王と、同じことを?」
「ええ、陛下が魔界にやって来た当初の話です。あの方も一時期、こちらに伝わっているかつての勇者の話を調べて回っていました。理由をお尋ねしたところ、貴女と全く同様の内容を述べられたことを覚えています」
──もしかして、レオンもあたしと同じことを考えたのだろうか。
あの問いの是非を知りたいと、そう思っていてくれたのならば。
とても、嬉しい。
あの裏庭での時間は、あたしの宝物だ。彼もまた、そう感じていてくれたら良いのにと思っていたけれど、少なくとも、覚えていてくれたのは確かだ。
それだけでも、想像以上に満たされた心地になる。
「あたしと魔王って、案外似た者同士なのかもね」
こぼした言葉に、デクスターは小さく動揺を見せた。しかしすぐに、ふっと笑って口を開く。すっかり見慣れた胡散臭いそれとはずっと異なる微笑には、どこか清々しいような印象を受けた。
「そうかもしれませんね」
カミラに軽く視線を向ければ、同意するように頷くのが見えた。
彼女がこの男に同調を示すのは、この十数分で初めてなのではないだろうか。
どうでも良い方向へ飛びかけた思考を律して、こう続ける。
「ねえ、またお茶会に誘ったら、魔王は来てくれると思う?」
「喜んでおいでになるかと思いますよ」
迷うそぶりもなく発せられたデクスターの返答に、カミラがはっきりと同意を示す。
「わたしも、そう思います」
「おや、気が合うとは珍しい」
「事実ですから。貴方に合わせたわけではありません」
何やら口論を始めた二人をよそに、あたしは一人そっと胸をなでおろしていた。




