第四十八話 聖女は質問に答える
「だって、ここはあたしが一生暮らすことになる場所でしょう? 知ろうとすることは、別におかしくないと思うけど」
あたしの返答には満足できなかったのか──まあ、普通に考えたらできないだろうけど──デクスターはわずかに眉をひそめて言う。
「ほう、殊勝な方だ。祖国のために身を捧げる覚悟をお決めになるだけに留まらず、敵を理解しようと努めようとなさるなど……」
分かりやすい煽り方をする。だけどその根底にはきっと、レオンへの忠誠があることを思えば、特段怒りは湧かない。
落ち着いているあたしと対照的に、カミラはとうとう顔から表情をなくしてしまった。今にも武器を構えそうで怖い。比喩とかじゃなくて、本気で。
「速やかに退出なさるか、わたしに叩き出されるか選びなさい、デクスター。貴方が賢明な判断をすることを祈っています」
「カミラ、良いから」
「良くありません」
彼女の額に血管が浮き出ている幻覚が見える。多分幻覚のはず、うん。
ふと視線を遣ると、必死でカミラを止めようとするあたしを見て、デクスターは面白そうに目を細めていた。
何一人で楽しんでるのよ、当事者。
生まれた苛立ちを何とか落ち着かせて、口を開く。
「カミラ、叩き出してほしくなったら言うから、それまで待っていて。ね?」
「……かしこまりました」
どうにか矛を収めてくれたらしい。良かった。
ここで流血沙汰なんて起きた日には、レオンに合わせる顔がない。
「待たせたわね、続きを話しましょう」
とはいえ、どこから何を話したものか。逡巡しながら、あたしは口を開く。
「アナタはあたしを、人質になることを受け入れた献身的な聖女、みたいに評してくれたわけだけど、別に心底そう思ってるわけじゃないんでしょう?」
というか、心底そう思っているならあんな言葉選びはしない。
肯定も否定もせずに笑みを浮かべている彼に、こう続ける。
「実際、その通りよ。あたしはそんな短期間に自己犠牲を選べるような、できた人間じゃない。あたしが助けが来ることに期待もしないで、ここに根を下ろすつもりなのは、あの場所に戻りたくないからよ」
半分くらいは本当だ。正確に言えば、レオンがいる限りここにいたい、ということになる。
だけどそれを話せば、必然的にあたしが魔王が「レオン」だと知っていることも言うことになるので、今回は黙っておいた。
「あたし、無理やり婚約を結ばれそうになってたのよね。こっちでは少なくとも、その心配はないでしょう? 何かあったときには真っ先に殺されるっていっても、逆にそうじゃないときには、下手に手を出すわけにもいかないじゃない」
あたしの言葉に、デクスターはわずかに目をそらした。カミラの方を向けば、彼女も同様に視線を他所へ遣っている。
何、あたし手を出される予定でもあるわけ!?
あのレオンが、あたしに危害を加えるとは思えないんだけど……まあ、そのときが来たら暴れるだけ暴れるだけだから、今は良い。
こほん、と一つ咳払いをして、あたしは再度口を開く。
「それで、あたしが魔界について知りたがる詳細な理由なんだけど」




