第四十七話 聖女は質問を受ける
「どうぞ掛けて。お茶を用意するわ」
招いてこそいないとはいえ、客人には違いない。
本を運ぶ役割を担うのは、彼である必要はなく、かつそれすら既に達成された後だったとしても、部屋に入るよう誘ったのはあたしだ。
ゆえに相応のもてなしを、と判断して口にした、何気ない言葉のつもりだったのだが。
「いいえ。この男には不要ですからお気になさらず」
デクスターよりも先に、カミラがそう返答した。常の落ち着きと柔らかな物腰はどこへやら、といった剣幕にたじろぎながらも、あたしは言葉を返す。
「えっと、アナタが嫌ならあたしが淹れるけど……」
「なおさらです」
凄みが増してしまった。こうなった彼女の取扱説明書を、あたしは持っていない。本より先にそちらが欲しかったわ、なんて、ここにはいないレオンへの八つ当たりじみた思考まで浮かぶ。
「まあまあ、その言い様はともかく、カミラの言う通りです。実を言うと、お茶は得意ではなくて」
困惑するあたしを見かねてか、はたまた十分面白がった後でなのか、デクスターが会話に割り込んできた。助け舟、と称しても良いけれど、発端はこの男なので助けるも何もないと思う。
「あら、そうなの。アナタが良いなら何も言わないわ」
「お気遣いに感謝申し上げます。ああ、ですが俺に合わせて貴女が何も摂らない、なんてことはどうかなさらずに。陛下と彼女に怒られてしまう」
そう言ってカミラに視線を向けた彼に倣って、彼女の顔をちらりと仰ぎ……見なかったことにした。
あの鋭い眼光を受けてよく飄々としていられるわね、この男。半ば感心してしまう。
しかし、いつまでも黙っているわけにもいくまい。
「ところで、何のご用かしら? あたしに会うって目的は達成したみたいだけど」
にこやかに発したあたしの言葉に、デクスターはそれに負けないほどにこやかに返す。
「ええ、大変光栄なことに。実を言いますと、そう大した要件ではないのです。一つ、貴女にお聞きしたいことがございまして」
「どうぞおっしゃって。答えられることなら、何だって答えるけど」
キラリ、と彼の瞳が光ったように見えた。そのすぐ後に、デクスターはあたしに問う。
「貴女は陛下に、魔界について知りたいとおっしゃったそうですね──何故?」
ああ、疑っているのか。
掴みどころのない相手だと思っていたけど、何のことはない。レオンと、魔界のことを心配しているのだろう。
彼にこんな部下がいてくれて良かったと、心から思う。そんなことを考えながら、あたしは口を開いた。




