第四十六話 聖女は予期せぬ客人を迎える
sideエラ
やっぱり、「レオン」の話をするのはやめておいた方が良かったのだろうか。
お茶会の次の日、あたしは朝からそんなことを考えていた。
怒ってたわけではないと思うんだけど、じゃあ何を考えてたのかって言われてもお手上げなのよね……
朝食のサンドイッチを頬張りながら、頭を悩ませていた、そのときのこと。
「おはようございます、朝早くから申し訳ございません。入室の許可をいただいても?」
扉をノックする音と共に、聞き覚えのない声がした。
どう返事をしたものか判断に迷ったあたしよりも先に、隣に控えていたカミラが口を開く。
「デクスター、エレノア様にお会いしたいのならば、事前に許可を乞うべきではありませんか?」
……随分と当たりが強い。
丁寧な口調こそ崩してはいないものの、あたしの知る彼女の声よりもずっと低く、淡々と発せられた言葉には、重い威圧感があった。
だが相手ことデクスターとやらは、特段気にした様子なく続ける。
「ご尤もです。ただ、今回は比較的急ぎの用だったもので、やむを得なかったのですよ」
「それにしては余裕があるように見受けられますが……まあ、構いません。手短な説明を求めます」
カミラの言葉から、棘が抜ける気配はない。そして、デクスターにそれが刺さる様子もまた、ないようだ。
「昨日のお茶会で、陛下が約束なさった本を届けに来たんですよ」
昨日の今日で、用意してくれたのか。胸がじんわりと温かくなる。同時に、失言をしてしまったものの、嫌われたわけではないらしいことに安堵した。
一人喜びを噛みしめるあたしをよそに、カミラはやっぱり冷たく言う。
「それはご苦労さまでした。扉の前に置いておいてくださいな」
「ええ〜? せっかくなら、聖女様とお会いしていきたいんですけど」
「お引き取りください」
無情にもばっさりと切り捨てられた彼に対して、あたしは初めて口を開いた。
「あたしは構わないわ、大した予定もないしね。カミラ、良いでしょ?」
あたしの言葉に、彼女は小さくため息を吐いたものの、頷いた。
「エレノア様がそうおっしゃるなら……どうぞお入りください」
その言葉を待っていたとばかりに、扉が開く。優雅な足取りで室内に入ってきたその魔族は、美しい礼を取った後、口を開いた。
「初めまして、聖女様。俺はデクスター、魔王陛下の側近をさせていただいております」
一つに編まれた長い赤毛に、金色の瞳をしたその男の容貌は、軽薄な口調とは裏腹に怜悧な美しさを纏っている。
そんな彼に笑みを浮かべて、あたしは挨拶を返した。
「こちらこそ、初めまして。エレノアよ」




