第四十三話 魔王は茶会に出向く
sideレオン
約束の時間の五分前。俺は影の中で、その時を待っていた。
開けようと思えば今すぐにでも、彼女の部屋の前に裂け目を開けることができる。
深い意味はない。万が一、鉢合わせでもしたときに何と言えば分からないから、というだけで。
とはいえ、暇だ。他にすることもないので、エラの目的について考えてみる。
デクスターには、彼女の罠にかかるなら本望、などと啖呵を切ったとはいえ、エラが姑息な手を使ってくるとは思えない。正々堂々と抗議をするのならともかく。
というよりも、後者のためなのではないか。かつてカーティスに向けられていたような、鮮烈でどこまでもまっすぐな敵意を、己に向けられることを考えると憂鬱な気分になる。
自分の選択した結果なのだから、文句を言うつもりはないけれど。
悶々とそんなことを考えていれば、いつの間にか時間になった。扉を控えめにノックすれば、パタパタと駆け寄ってくる足音が聞こえる。
「いらっしゃい! ほら、早く入って」
想像よりもずっと明るい声と共に、扉が開いた。恐る恐る室内に入れば、ごく普通の茶会の用意がされている。
促されるままに席に着くと、ティーカップに茶が注がれた。覚えがある香りに、俺が用意した茶葉が使われていることを悟る。
喜びと安堵がないまぜになったような感情に浸りつつ、カップを持ち上げる。ほんのりと温かい感覚に、魔石を利用した何かしらの工夫がされていることを悟った。
発想が柔軟な彼女らしい、と感心しつつ、縁に口をつける。
その最中、ちらりとエラの方を覗けば、じっとこちらを見つめる彼女と視線がかち合った。
慌てて明後日の方向を向く。何か言われるだろうかと身構えるも、特段言葉をかけられることはない。
……エラは何がしたいんだ?
ずっと考え続けているものの、その片鱗さえも掴めそうになかった。昔は、容易に察することができたのに。
鈍く小さく痛む感傷は見ないふりをして、口を開く。
「……招待に、感謝する。しかし何のために俺を呼んだのか、教えてくれないか」
失念していた、という風にハッとした彼女は、しかしすぐに笑顔を見せて言った。
「特に大きな理由はないわ。ただ、アナタと喋ってみたかっただけ」
話? 己を連れ去り、閉じ込めた相手と何を話すというのだろう。
そう単純な話ではないはずだ。真意を探るべく黙り込んだ俺に、エラは続ける。
「でも、そうね……魔界について、もっと知りたいわ。教えてよ」
「魔界について?」
──やっぱり、彼女の考えていることは分からない。




