第四十話 魔王は招待状を受け取る
離宮へ攫って以降、俺はエラの様子を度々伺った。彼女は攫われた身でありながら、特段取り乱すこともなく、この場所での生活を送っている。エラらしい、と言えばその通りだ。
しかし面と向かって会う勇気もなく、結果的に覗き魔のような格好になってしまったのだが。
その都度カミラからはじっとりと睨まれる上、デクスターには連れ戻される。非があるのは俺の方なので、甘んじて受け入れるけれど。
今日も今日とて執務室へ連行された俺は、デクスターからの小言へ大人しく耳を傾けていた。ひとしきり口にしきったらしい彼は一つ咳払いをして、教育係から側近の顔へと表情を変える。
どうしたのかと、続く言葉を待っていれば、彼は淡々と言葉を紡ぎ始めた。
「さて、報告が二つございます。良い方と悪い方、どちらから聞きます?」
「……悪い方から聞こう」
「承りました。勇者が、選ばれたそうです」
軽く瞠目した後、そうか、と冷静であるよう努めて言う。
「想像よりも好戦的に出たな。小心者の王のことだ、こちらが王城の結界を破ることができると知った時点で、反撃に出るとは思わなかったが」
俺の呟きに、デクスターはこう捕捉する。
「どうやら王太子が、聖女を取り返すべく、勇者の選定を速やかに行うべきだと強く主張したようです」
「カーティスか」
どうやら己は、あの男の彼女への執着心を甘く見積もりすぎていたらしい。一度敗れたも同然、しかも直前まで知覚することすら叶わなかった魔族と、自ら敵対するなど狂気の沙汰だ。
「それで、不幸にも勇者に選ばれた人間の詳細は?」
「これが中々面白いんですが……なんと、その王太子が勇者だそうで」
今度は、二の句が継げなかった。しばらくの間、呆然として黙り込んだ後、絞り出すようにして言う。
「……皮肉な話だな」
俺の言葉に、デクスターは肩をすくめた。
「向こうからすれば妥当なんじゃないですか? 連れ去られた婚約者の聖女を取り戻すべく、立ち上がった王子にして勇者だなんて、ここまでロマンチックな展開は創作物でもそう見れませんよ」
「お前はどちらの味方なんだ」
「もちろん俺は、陛下の忠実な部下ですよ」
大げさな礼をして見せた彼にため息を吐きつつ、口を開く。
「この件は任せた、また何か動きがあれば報告してくれ。で、良い知らせの方は何だ?」
「承りました。良い知らせは、こちらです」
その言葉とともに、一枚の封筒が手渡される。封を破って中を改めれば、そこには一枚の紙が入っていた。見覚えのある筆跡で綴られたそれは。
「招待状?」
何度読み返しても、俺を茶会に招待したいという旨がそこに書かれている。
なぜ、どうしてと首をひねるも、理由はさっぱり思い浮かばない。
「良かったですね。ま、聖女サマなりの罠かもしれませんが」
「彼女の罠にかかるのならば本望だ」
間髪入れずに返した言葉に、デクスターが呆れたように首を横に振るのが、視界の端に映る。
しかしそんなことはもはや、どうだってよかった。




