第三十四話 第二王子は謝罪を受ける
事件から二日後、離宮には珍しい人間がやって来た。
国王夫妻とカーティス──こいつは別段珍しくはないが──だ。背後には、神官服を着た女性も控えている。
ノック音に気づいて扉を開ければ、上記の彼らが立っていたものだから、ひどく驚いた。
動揺でその馬に固まる俺に、国王は不承不承ながら、という雰囲気を隠すことなく口を開いた。
「……レナード、これまでのお前の扱いは不適切だった。謝罪しよう」
王と共に、王妃とカーティスもノロノロと俺に頭を下げる。
──笑えるほど、心に響きやしなかった。
この状況を作ったのが誰かなんてことは、考えずとも分かる。エラだ。
先日の俺の姿を見た彼女が心を痛め、王家だか神殿だかに苦言を呈したのだろう。
これまでの意趣返しとして、彼らの言葉を突っぱねることだってできるけれど、それではエラの面目を潰しかねない。だから。
「……とんでもない。気にかけてくださったこと、感謝申し上げます」
俺は彼らに負けないほど、噓くさい笑みを浮かべてみせた。
上辺だけの謝罪を、受け入れることにした、その二日後。本を読んでいれば、
「レオン、来たわよ!」
と、いつもの言葉と共に彼女は現れた。読んでいた本を閉じて、言う。
「兄上たちが、謝りに来たから何事かと思ったよ……お前が何かしたんだろ?」
「……余計なことだった?」
顔を曇らせたエラはきっと、かつて俺が踏み込まれることを拒んだ件に、介入したことを気にしているのだろう。
触れられたくなかったことであるのは、確かだ。だが今は、そんなことはとっくに些事だ。
「いいや、嬉しかった。俺のために怒ってくれてありがとう、エラ」
素直にそう返せば、彼女は安心したように表情を緩ませた。
よかった、笑ってくれた。
内心で、ひっそりとそんなことを思う。彼女に、強張った顔は似合わない。
「当然じゃない。アナタはあたしの大切な友達なんだから」
へにゃりと軽く眉を下げて発せられた言葉に、俺はほんの少しだけ遅れて応える。
「……そうだな」
嬉しいことに、違いはない。彼女は俺にとっても、大切な友達だ。
俺にとっての友達、という存在は彼女が初めてだから、本当にそうなのかは怪しいかもしれないけれど、少なくとも俺と彼女の関係は、俺の知る友達の定義に当てはまる。
だから彼女は間違えてなどいないし、俺は彼女にとって大切な人間だと明言されたことに、素直に喜んでおけばいい。
それなのに。
……足りない。
内心で、そんな感覚が沸々と湧いては、今にも溢れそうだった。先日、俺の代わりに怒りをあらわにしたエラを目の当たりにしたときのそれと、どこか似通っているような。
彼女は言いよどんだ俺を、不思議そうな顔で見ていたものの、深く追及することはないようだ。
以前と同様、この感情をエラには知ってほしくはなかったので、密かに感謝した。
抑え込めど、幾度も存在を主張するその想いの名を、俺はそう遠くない未来で知ることになる。




