第三十二話 第二王子は癒される
エラが離宮にやって来るようになってからも、カーティスが時折こちらを訪ねては、満足するまで痛めつけてゆくのは変わらない。
ただ、ひとつ変化があった。
いつものように、不毛な時間を無言でやりすごした次の日、彼女が俺の負ったケガに気づいたのだ。
シャツの隙間から僅かに垣間見える程度の、傷跡の端を目ざとく見つけたエラは、それをあらわにするよう俺に命じた。
その勢いにたじろぎつつ、ボタンをいくつか開ければ、彼女はどうしてか、ひどく傷ついたような、痛ましい表情を浮かべた。それをどうにかして取り除いてやりたくて、恐る恐る言葉を紡ぐ。
「大して痛くもないし、放っておけば治る。だからそんな顔しなくても、」
「そんなはずないでしょ! いいから黙ってじっとしてて」
その言葉に従って口をつぐみ、じっと身体の動きを止めれば、彼女は傷跡に手をかざし、何も言わずに治癒魔法をかけ始めた。
必要ないと言っても、彼女は止まらない。痛みもなく、すぐに治るようなこれには、エラが魔力を消費する価値などないのに。
だが次の瞬間俺は拒絶の言葉を吐くために開きかけた口を閉じた。身体が、驚くほど軽くなったからだ。
……俺は、痛かったのか。
傷が癒されてゆくに従い、楽になってゆく感覚を得て、ようやく気づく。
そんな風に呆気に取られていた俺に、彼女は厳しい目つきで問うた。
「ねえ、どうしてこんなケガしたわけ? 言い訳はナシよ。転んだだけじゃこんな傷つかないってことぐらい、ひと目でわかるんだから」
暗に、誰にこんな傷をつけられたのかを聞いているのだろう。
しかし、カーティスとの問題に関しては、彼女には触れてほしくなかった。巻き込みたくない、と言った方が正確かもしれない。
流石のあの男も、エラにまでその手を上げることはないだろうけれど、万一の場合を考えるだけで恐ろしかった。
幸い、彼女は無理に聞き出そうとはせずに、ため息ひとつだけで追及を止めてくれた。
その後も、黙々と治癒を施し続けてくれたエラは、ひと際大きな裂傷──蹴り飛ばされ、転がった拍子に木の枝が肌を抉った際にできたものだ──をほとんど塞いだ後に、その手を止めた。
「ごめん、魔力が切れちゃった。今のあたしじゃ、これが限界みたい」
「っ、大丈夫か!? 魔力切れは甘く見ると取り返しがつかなくなるんだぞ。お前の方がよく知ってるだろ」
やはり、無理にでも止めればよかった。そう後悔する俺に、彼女は大きく首を振って言う。
「大丈夫よ、あたしだって限度はわきまえてるもの。ちょっと休めば平気」
「でも──」
「それより、あたしを心配してくれるんなら、今度からは自分からケガを申告して頂戴。一度に沢山治すより、こまめに癒す方が楽だもの」
そんな風に言われれば、従わざるを得ない。渋々首を縦に振った俺に、エラはいつもの笑顔で応えてくれた。




