第二話 聖女は神殿に拉致される
それからは、あっという間だった。
実感が何も湧かずにぼうっと突っ立っている横で、神官様たちがバタバタと慌ただしく動いていたかと思えば、気づいたときには勝手にまとめられた私物を手に、馬車の中にいた。
──え?何が起こった?
「あの、すみません!」
何かごにゃごにゃと喋っている年若の神官様の話を遮り、言葉を紡ぐ。
「あたしが、何かすごい魔法を持っていたのはわかりました。ですが、どうしてあたしは今、馬車で運ばれているんでしょうか?」
神官様が呆れたような表情を隠そうともせずに、そこからかよ……と呟いたのが聞こえる。無知で悪かったね。
彼の話を要約すると、こうだ。
この世界には、不定期に光魔法を扱える女性が誕生し、その女性を聖女と呼ぶ。
光魔法とは、浄化魔法や治癒魔法──これはそれ単体でなら、使い手はそれなりにいる──といった、癒し系の魔法全てを合わせたような魔法であり、非常に珍しいものとのこと。あの光は、光魔法の適正を持ってるって示してたんだね、納得。
そんで、聖女と認定された女性は神殿にて保護され、光魔法の扱い方を学ぶんだと。
──単純に、貴重な魔法を使える人間を囲いたいだけじゃないか。
どこまでもお偉いさん方に都合の良いような制度に、嫌悪感がムクムクと湧く。
まあ、拒否権はないんだろうけどね。
孤児院の仲間に挨拶すらさせてもらえず、いきなり連れて帰ろうとしている時点で、こちらの考えや気持ちは通じないと見て良いのだろう。
事実を受け止め切れてこそいないけれど、なんとか頭を回転させて今後の展開を想像する。
……とりあえず、神殿に保護されるってのが、幽閉だとか監禁の類ではないことを祈ろう。
そしてあたしはその神殿へ移送中、か……なんか、貴重な存在の割に、扱いがかなり乱暴ね?
「聖女ってのは大体貴族出身の令嬢から輩出されてるんだが、な。よかったなあ?平民の孤児が大出世だ」
そんな疑問は、神官様の嫌味によって解消された。
それは良いけど、大分腹がたつなコイツ。
いつか完璧なマナーを披露して見返してやるわ……!
そう気合を入れてから、しばらく後。
かなりお尻が痛くなってきた頃に、ようやく馬車が停まった。どうやら神殿に着いたらしい。
騎士様に手を貸してもらって、馬車の外へと降りる。
うちの教会とは比べ物にならない大きさと豪奢な外装の神殿に、目を丸くしながら、あたしはその中へと入った。
入り口には沢山の神官様が綺麗に整列しており、あたしが前を通るときには恭しく頭を下げてゆく。
「本当にあの小娘が聖女なのか?」
「魔石は間違いなく光ったそうよ。でもいやねえ、平民出身の聖女だなんて。神殿の品位を下げてくれたらどうするの」
だーかーら、聞こえてますからねー?
平民が不満なのは分かったけど、こっちも好きで選ばれたわけじゃないっての。
苛立ちながら花道を進んでゆくと、その終点には一人の女性がいた。
白髪を後ろできちんと纏めた彼女は、皺の刻まれた顔に笑みを浮かべ、あたしに優雅な礼を見せる。
「ようこそ、聖女様。わたくしは大神官、ヘーゼルと申します。わたくしの代で聖女様を神殿に迎えられるだなんて、とても喜ばしいです」
「あ、エレノア、です。ご丁寧にどうも……ええと、大神官様」
「ヘーゼルとお呼びください、聖女様。早速で申し訳ございませんが……こちら、聖女様のスケジュール帳です。どうぞお目通しください」
聖女だと判明したのはわずか数時間前だっていうのに、もうスケジュールが決まっているとかどういうことなんだと戦きながらも、とりあえず渡されたスケジュール帳に軽く目を通そうとした……のだが、最初のページで手が止まる。
スケジュールの中に、少しばかり理解に苦しめられる単語が使われていたからだ。それも頻繁に。
誤字ではないかとも思ったけれど、それにしてはあまりにも多すぎた。
ちょっとあたしでは理解できそうにないので、ヘーゼル様に尋ねてみることにする。
「……この、妃教育とは一体、どういうことなのでしょうか?」
「そのままの意味です。聖女様はいずれ、王族に嫁ぐことになられるお方ですから」
「……は?」




