第二十八話 第二王子は振り返る
ここからしばらくsideレオン
何のために生まれてきたのか、という問いをどこかで見た。
暗闇の中で生きることしか知らなかった、かつての幼い己はきっと、こう言うだろう。
「俺の生に、意味なんてない」
あの日。俺の足に、口の悪い天使が躓いたあのとき。
俺の光を目の当たりにする、その瞬間までは。
元第二王子、レナードの母親は、王宮に務める侍女だった。王の気まぐれで手を付けられた彼女は平民であり、何の後ろ盾も持っていなかった。ゆえに、側室に召し上げられることすらなかった。
それにも関わらず、彼女は不幸にも胎に王の子を宿してしまったのだ。それが、俺だ。
当然、俺の立場は、産み落とされたその瞬間から、最悪といって差し支えないものだった。
母の遺伝でも、ましてや父の遺伝でもない紅い色をした瞳をしていたのも、それに拍車をかけた。
それでも、王子を殺すことは難しかったのだろう。俺と母は、王城の敷地の外れに位置する離宮を与えられ、そこで生活することを許された。強いられた、とも言える。
最低限の物資は届けられ、第一王子に何かがあったときの保険のつもりなのか、それなりの教育も施された。教師は俺を気味悪がったのか、何度も替わったし、十五になるころにはそれすらなくなったのだが。
針の筵であっただろう母は心労が祟ってか、はたまた誰かしらに何か盛られたのか、俺が十になる前に死んだ。
既に記憶はおぼろげだが、俺を唯一慈しんでくれたひとだった。
代わりに、「兄上」が時折、俺の前に姿を見せるようになった。
己の正義を信じてやまない第一王子カーティスは、俺という異物が許せなかったらしい。不定期に離宮へ現れては、俺を痛めつけるようになった。
殺してはいけないとでも言われていたのか、はたまた面倒なことになると理解していたのか、致命傷を与えられることはなかった。
最初のうちは抵抗もしたが、早々に無駄だと悟って諦めた。天性の才能と一流の教育を施されたカーティスの魔法から逃れるなんて、お粗末な基礎の魔法指南と、書庫からこっそり持ち出した古い本の中の知識しか持たない俺にはできやしない。
それに体質なのか、俺が負ったケガは、すぐに癒える。だから、受け入れてしまうことが一番楽だったのだ。
死んでしまえば楽になるのか、とも考えた。しかしそれは、最後まで俺の身を案じていた母の願いを踏みにじるようなものだ。
だから、それを選ぶことはどうしたってできなくて。
そんな、死なないから生きる、と形容するほかないような人生を送っていた俺の前に、彼女は唐突に現れた。




