第二十七話 聖女は魔王と話をしたい
そうして始まった魔王城での軟禁生活は、それはそれは快適だった。
美味しいご飯が三食、それにおやつと昼寝付き。その上、食べたいものをカミラにリクエストすれば、次の食事時には望んだものが食卓に並ぶ。
書庫は読み切れないほどの本で溢れ、外の空気が吸いたくなったら庭で土いじりをしたって良い。
しかし、魔法が使えない不便さも忘れそうになるくらい、何不自由のないこの日々の中でたったひとつ、不満に思うことがある。
レオンが、なかなか姿を現すことをしないのだ。
聖女の身柄さえ手に入れればそれで良く、あたし自身にはもはや興味がないのでは、という可能性は早々に排除してある。一日に一度は、どこからか視線を感じるせいだ。
カミラがこちらを見守るそれではない。というか彼女は、あたしの死角からこちらを観察したりしない。
何度か、方向にあたりをつけて振り向いてみたけれど、そこには既に誰もいなかった。
気のせいと断じるには頻度が高すぎるし、カミラは薄っすらと呆れを含んだ表情を都度浮かべているから、その線は考えにくい。
それだけではない。
朝起きたときに決まって、淡い魔力の気配が部屋に残っているのだ。もちろん、レオンのそれである。
できる限り痕跡を残さないように努力した跡もあるけれど、この程度なら突破は造作もない。あたしが魔力の残滓からその主を特定できるなんて、誰も知らないのだから、消し方が甘くなっても無理もないけど。
もちろん、普通は気づかない程度の薄い気配だ。だけどあたしは、完全に行方不明になった彼の足跡を必死で辿ったこともあるのだ。
舐めないでよね、なんて届くはずもない言葉を飲み込んで、レオンがこそこそあたしの顔を見に来る理由でも考えてみる。
監視? それなら夜に来る必要はない。
……夜に来る、といえば夜這い? なら最初の晩は何だったのか。
それに何かされた形跡もなく──そもそも何かされたら気づかないわけがないし──ただ純粋に傍にいただけらしいのが、この仮説を否定している。
じゃあ本当に何なのよ……!?
寝たふりをして夜中まで起きておいて、彼がやってきた瞬間起き上がって問い詰める?
それとも、無理やり腕輪を外して結界を突破、彼の元まで直談判?
「……ナシね」
前者は手っ取り早いし、後者もやろうと思えばできるだろう。
しかし失敗したとき、下手をすればレオンがあたしに二度と会おうとはしなくなるかもしれない。
それは嫌だ。せっかく再会できたのだから、再び離れ離れになるリスクはできるだけ避けなければ。
「お茶会でも開いてみましょうか」
来てくれるかは賭けだけど、最初は正攻法で試してみても良いだろう。
そうと決めれば、善は急げだ。招待状を作成するべくあたしはペンを執り、その先を紙へ押し付けた。




