第二十六話 聖女は手紙を受け取る
「以上が、エレノア様をここへお連れした理由になります。そしてこちらが、陛下からのお手紙です。」
「……手紙?」
そんなまどろっこしい手段を取らずとも、同じ城の中にいるというなら直接話せば良いのではないか。
ああでも、ここは離宮らしいから、厳密に言えば建物は違うのか……いや、あの影を使った移動方法があるんだから、多少の距離があったって関係ないんじゃ?
そんなことを考えているあたしの前に、カミラは一枚の白い封筒を手渡した。差出人の名前は書かれていない。
封を切って中をあらためれば、それは確かに手紙だった。
筆跡に、覚えはない。というよりも、あたしはレオンの字を見たことがないから、比べようがない。
深呼吸の後、その内容へ目を走らせる。
『拝啓 聖女エレノア殿
数々の狼藉、並びに無作法を心よりお詫び申し上げる。俺の目的は、カミラから聞いた後だろう。こちらの勝手な事情に巻きこんでしまう、詫びになるなどとは思ってないが、可能な範囲で貴殿の希望に沿った生活を送れるよう、手を尽くしたいと思う。結界の中は自由に行き来してもらってかまわないし、望む物があれば遠慮せずに伝えてほしい。』
律儀だ。彼らしいというか、何というか。
それに随分と他人行儀だこと。あたしたちの仲だってのに──いや、レオンはあたしがとっくに気づいてるって知らないのか。
最後まで差出人の名前を頑なに記載していないことと、昨日着けていたらしい仮面のことを踏まえて、彼はその正体を隠そうとしていると見て間違いない。
まあ、光魔法の訓練の副産物で、魔力の察知能力が上がったなんて、一言も言ってなかったもの。まさか探知魔法も使ってないのに、魔力から個人を特定してくるなんて思わないわよね。
「魔王」がレオンであることを隠すのが、彼の計画にどう影響するのかはあまりピンとこない。けれど今は一旦、あたしも気づいていないふりをしておこう。
考えをまとめたあたしは、文中に見つけた初耳の単語について尋ねるべく、口を開いた。
「ねえ、結界の中って?」
「ご説明がまだでしたね。この離宮の周囲には、特別な結界が施されているのです。陛下と、わたしのような陛下が許可をした者しか通すことはありません」
ふむ、要するにあたしの檻であると。多分だけど、血の気の多い魔族が、あたしにちょっかいをかけるのを防ぐためのものでもありそうだ。
上等。とりあえずは、大人しく従ってやろうではないか。
最後の一口の紅茶を飲み干して、あたしはにっこりと笑って見せた。
「大体理解したわ。じゃ、これからよろしくね」




