第二十五話 聖女は現状を理解する
「だけど勇者って、早々現れるものじゃないでしょ? いつ現れるか、なんて予言が存在したこともあったらしいけど、あたしの記憶通りなら、数百年前からそんなの残ってないわ。国が人々に勇者の適性鑑定を行って、発見された事例ならいくつかあったけど」
あたしの寿命はうんと長く見積もったって、あと八十年もすれば尽きる。
その間に勇者が発見される、もしくは誕生するかする確率は低い。あたしの死後に別の聖女を見つけてこようったって、こちらはこちらでそう簡単に生まれる存在じゃない。
仮に都合の良いタイミングで新たな聖女が誕生していたって、人間側は既に、あたしが攫われたときの失敗を二度と繰り返さないため、より厳重な対策を講じた後だろうし。
あたしの質問に、カミラは初めて返答を躊躇うそぶりを見せた。
少しの思案の後、彼女はゆっくりと語り出す。
「エレノア様にとっては、受け入れがたい事実だとはあるのですが──勇者という存在は、さほど珍しいものではないのです。彼の存在は、王族の切り札である、と言えば分かりやすいでしょうか」
『国民のヘイトを魔王へ向けさせて、天災――ともすれば人災すら、魔族たちが仕向けたことにしたかったんだろうな。ここまで多岐にわたる災厄に対応した魔族が存在しうるなら、この国はとっくの昔に滅びてる』
かつてのレオンの言葉が、ふと頭の中をよぎった。
あの時のあたしたちの推測は、おそらく。
「勇者が現れたときの王は、もはや自分たちの力だけでは抑えきれない厄介事を魔族のせいにしたのね? そして勇者を選び、魔界へと侵攻させた」
あたしの言葉に、カミラは目を見開き、しばし呆然としていたようだった。
しかし、彼女はすぐに我に返ったらしく、優雅に笑んで見せる。
「その通りです。加えてわたしたち魔族は、吸血鬼など一部の種族を除けば、そのほとんどが人には無関心です。そのため、自ら攻め込むことも、逆に攻めてきた勇者一行と刃を交えようすることもありません。一部の闘いを好む、もしくは魔王陛下に心酔した魔族数名が、彼らに喧嘩を売る程度のものです」
どの勇者の物語でも、魔王と対峙するまでに数名の魔族と交戦していたはずだ。その多くが一定以上の強さをしていたことが多い。
それと照らし合わせれば、筋が通っている。
「しかし、魔王陛下となれば話は別です。勇者たちは陛下を倒すべくやって来るのですから、無関心であろうと彼らはどこまでも追ってきます。それならば、迎え撃つのが手っ取り早いのです。その結果がどうあろうと、勇者一行は魔界からいなくなりますから」
「そして、その段階で最も強い魔族が新しい魔王になるって流れかしら?」
「ええ、まさしく」
うーん、ドライ。でも分かりやすいわね。
そして、元人間の現魔王ことレオンは、その過程で散る──勇者とエンカウントしてしまった弱い魔族や、対峙することを選んだ結果破られた魔族などを、根本からなくそうとしていると。
心の内で情報を整理しつつ、あたしはカミラの次の言葉を待った。




