第二十二話 聖女は困惑する
優しい手つきでベッドに横たえた後、彼はあたしの左手首をとった。続いて、何か輪のようなものを嵌められた感覚がする。
これ、腕輪? 何のために?
疑問の答えは、数秒後に判明した。身体に違和感が生じたのだ。
本来、血液とともに巡るはずの体内の魔力が、停滞している──いや、極端にその速度が落ちているのか。
これはきっと、装備者の魔法の発動を封じるための魔道具なのだろう。魔力の巡りだけを器用に遅延させるなんて、よくできている。
現実から逃避するためか、他人事のような感想が浮かんだ。
しかし、そんなことを考えている間にも、レオンの気配が近づいてくるのを感じる。いよいよ、なのだろうか。
心の準備などできているはずもなく、心臓はうるさいほど鳴っている。
頬に冷たい手のひらで触れられ、すんでのところで肩を跳ねさせるのをこらえた。「その先」を予感させるような接触を、身を硬くして享受する。
──しかし、いつまで経っても、想像した展開は訪れない。彼は、繊細な手つきであたしの頬を撫でるだけだった。何度か往復した後、ゆっくりと離れて行ってしまった手に、内心唖然とする。
いや、まだ分からない。一度離れてから改めて襲おうとしている可能性だって……しかしその期待──違った、予想は外れだった。
レオンの気配は踵を返し、あたしからどんどん離れていく。ドアが開き、そして閉じられた音が聞こえて初めて、あたしは冷静な思考を取り戻した。
閉じ続けていた瞳を開けば、質の良い調度品の並ぶ、整理整頓のされた室内が目に入る。しかしそれを眼中に入れる余裕は、今のあたしにはない。
ドアの方向に目を向ける。当然、誰もいない。左右を確認する。やっぱり、誰もいない。
当たり前と言えば、当たり前のことである。しかし、それが意味するところは。
「最初から、その気なんてなかったってこと……?」
身体から、どっと力が抜けるのを感じる。こんなにも緊張したというのに、一体何の時間だったのだろうか。
なんとはなしに左腕を持ち上げて、嵌められた腕輪を観察する。
繊細な模様の彫られた銀色のそれは、一見すると拘束具だとは思えない。
レオンってば、何が目的なのかしら……
真面目に考えようとするのに、思考が上手く働いてくれない。短時間の間に色々なことが起こりすぎたのだから、当然といえば当然のことだ。
うん、今日はもう寝てしまおう。きっと、明日のあたしが何とかしてくれるはずだ。
考えることを放棄して、あたしは再び目を閉じた。




