第二十話 聖女は思わぬ再会を果たす
突然、空が真っ暗に染まった。
夜以上に暗くなった空間の中で、ざわめきがさざ波のように広がってゆく。
次の瞬間、あたしの真横に尋常じゃない魔力を纏った人間──人間なのかも定かではないけれど──が生えてきた。
人間もしくはそれに準ずるものが、生えてきてたまるかとはあたしも思う。でもこの唐突さを形容するなら生えてきたとしか言いようがないのだから仕方がない。
それは俊敏な動きであたしの身体を捕らえ、そちらへと抱き寄せた。布越しに感じる腕の硬さや逞しさからして、どうやら男性のようだ……というか。
──レオン?
男から感じられる魔力は、かつての彼のものとは少し変化している。だけどこれは確かに、レオンの魔力であるとあたしの直感が告げていた。
唐突なレオンの出現に呆然としているあたしをよそに、どうやらポツポツと光が灯され始めたらしい。
頭上から舌打ちする音が聞こえたと思えば、膝下に片腕を入れられ、横抱きにされた。
「ひゃえっ、!?」
我ながら、色気の欠片もない声が転げ落ちる。
「聖女様!」なんて悲痛な声が聞こえたような気もするけれど、あたしは推定引き裂かれた初恋相手に、横抱きにされている現実を受け止めようとするので精一杯なので、そちらに割ける意識はない。
固まったまま脳をフル稼働させていれば、彼の手のひらがあたしの額にかざされた。続いて、魔力を流し込まれる感覚がする。反射的に弾いてから、それが相手を眠らせるための魔法──正式名称は忘れた──だと気づいた。
レオンの意図は定かではないものの、とりあえずは従ったふりをしておこうと、咄嗟に瞳を閉じて身体から力を抜いておく。
悲壮なざわめきが耳に入るが、聞こえなかったことにした。レオンも同じ選択をしたらしく、群衆に背を向けて何やら詠唱を始めた。
聞き覚えのないそれに、内心首をかしげる。この三年、かなり多くの魔導書を読んだはずなのだが。
唱え終えたらしい彼が眼前の空気をなぞれば、空間の裂け目のような、影のようなものが現れた。どよめきが更に大きくなる。
声を上げかけたのを何とか抑え込んで、しかし動揺に鼓動が早まった。
これ、闇魔法、よね……?
魔界に住まう魔族の中で、一部の個体だけが扱うことのできるというその魔法の中には、空間の影の扉を開き、その中を移動するというものがあったはずだ。
彼が今使用している魔法と、同様のものと見て良いだろう。
頭のどこかで、そう冷静に分析しながらも、あたしはひどく困惑していた。
だって……レオンが唐突に現れただけでもいっぱいいっぱいだってのに、闇魔法まで使ってるってどういうことなのよ!
心の内でそう叫ぶあたしを知らず、彼はあたしを抱いたまま、影の中へと足を踏み入れた。




