第十八話 聖女は無力さに歯嚙みする
一睡もできないまま、無情にも今日はやってきた。それは、一時間後の私は、王太子殿下の婚約者になっていることと同義だ。
今のあたしは、控えの間で、神官たち及び王宮の侍女たちから、ゴテゴテと飾り付けられている真っ最中である。
服は重いし化粧はしつこいしで、式典が始まる前から疲労が着々と蓄積していくのを感じる。
まあ、疲労自体は構わないのだ。
問題は、カーティスからプロポーズされるであろうことと、あたしはそれを受けざるを得ないということなので。
嫌で嫌で仕方がないとはいえ、どうすることもできなかった結果が、今だ。
あたしにできることは、何もない。
ふと、かつて孤児院で読んだ本の内容を思い出した。
出だしも結論も忘れてしまったけれど、無理やり結ばされた婚約に、泣き暮らすお姫様が登場したことは覚えている。
当時は泣いてるだけじゃ何も変わらないのに、なんて思ったものだけど、確かにこれは泣きたくもなる。
そんなことを考えている間に、数時間にも渡った支度は終わったらしい。
促されるまま、のろのろと足を動かし、会場へと向かう。
何とはなしに空を見上げれば、憎たらしいくらいに青く晴れ渡っていた。
他人の目からみたそれは、あたしとカーティスを祝福しているかのように映っているのでは、なんてことに思い至り、密かにため息を吐いた。
八つ当たりだということは百も承知の上で、空を小さく睨む。
そのとき、視界に一瞬、ヒビのようなものが映った気がした。
──あれ?
王宮の周りには、一流の魔術師による結界が張られている。
この国で最も強固なそれに、綻びが生じるなんてこと、あり得るわけがない。
単なる勘違いだと判断して、歩みを進める。
しばらく歩いた末に、あたしたち一行は、大きな扉の前に着いた。
この先はバルコニーになっていて、段取り通りに進んでいれば、事前の儀式を終えて立太子したカーティスが待機している。
この儀式は、一部の選ばれた人間の立海のもと行われる、閉じられたものだ。
しかし、あたしが祝福をかける瞬間は、一般公開されることになっている。
おそらく、その後のプロポーズを想定してのものだ。
王太子と聖女の婚約なんてビッグイベント、公開しない手はないだろう。
各方面が潤うのは目に見えている。こちらとしてはいい迷惑という他ないけれど。
外には既に多くの人が集まっているらしく、分厚い扉越しにもその喧騒が聞こえてくる。
周りに聞こえないよう、ひっそりとため息を吐いた。前を向いたあたしの視界に、目の前の扉がゆっくりと開いてゆくのが映る。
隣に配置された神官に促され、あたしはのろのろと足を踏み出した。




