第十七話 聖女は頭を悩ませる
三年のときが経過して、あたしは十八になった。
国の各地を訪問したり、神殿の運営する治療院の活動に参加したり、写真を撮られたり絵姿を描くために座りっぱなしになったりと、聖女としての仕事は増えている。
後者二つに至っては、撮られたり描かれたりする時間より、そのための化粧を施される時間の方が長かった。どうせあたしの顔は、念入りに弄らなければ華の欠片もない地味さだよ。
なお、全てタダ働きだ。衣食住と教育を提供──提供も何も、有無を言わさず連れてこられたのだが──してもらっている代わりだと納得しかけたこともあった。しかしちょっと調べたところ、「聖女サマ」の写真だの絵姿だのの予想収益は、あたしの生活費を差っ引いてもお釣りがくるほどだったのだ。
訪問に関しては計算がややこしいから置いておくとして、ここに治療院の職員の平均収入を加算してみると、なかなかの額になる。
それがあたしの手元にないってことは、そういうことだ。神殿の金庫の中で、ぐっすり眠っているのだろう。
腹立たしいことこの上ないけれど、それ以上に大切なことがあたしにはあるから、この現状を甘んじて受け入れている。
大切なことというのは無論、レオンの捜索だ。
あの日以来、あたしは誓った通り、彼の行方を捜し続けている。
手がかりは未だ見つかっていないものの、それはレオンが死んだという痕跡も発見されていないということだ。
それがはっきりするまで、諦めるつもりはない。
しかし近頃は、その活動に時間を割くことが難しくなっていた。
その理由は──
「聖女様。明日はお早いのですから、そろそろお休みください」
「……ええ」
明日開催される、カーティスの誕生祝いのパーティーにあった。
パーティーを開くのは良い。好きにすれば良い。
問題は、それが彼の立太子の盛典を兼ねていて、かつあたしがこの手で、あの男に祝福を与えてやらなければならないということだ。
何が悲しくて、あたしとレオンを引き裂いたであろう人間を祝福しなければならないのだろう。
そして最悪なことに、あたしはどうやらその場でカーティスからプロポーズをされるらしい。
何のことはない、今まで正式な婚約の打診を、のらりくらりとかわし続けてきたけれど、向こうもついに痺れを切らしたというだけのことだ。
都合よく病気に罹ることができたらと思ったけれど、式典のひと月は前から治療院での仕事はスケジュールから消えていた。
治癒魔法の使い手の巣窟たる神殿では、仮病だって通じはしない。
逃げ出すにしても、何の準備もしないですれば、あっさり連れ戻されるのがオチだ。
いっそのこと、聖女という身分を捨てて、本気で出奔してやろうかとも思ったけれど、何とか逃げ切れたとして、その先が見えない。
色々な魔法を使えるのは便利だろうが、あまりやりすぎると光魔法の適性がある人間だと、見る者が見れば知られてしまう。
レオンの捜索どころか、生活に苦労することは明白だ。
彼を探すという点で考えれば、聖女の立場があるから得られる情報が、何も手に入らなくなるというのは、非常に痛い。
結局のところあたしは、聖女であるしかないのだ。
しかしそれは、明日名実ともにカーティスの婚約者になることを意味する。
どうすれば、良いのだろう。
何度も何度も考えたこの問いの答えは、ついぞ思いつかなかった。




