第十六話 聖女は想いを自覚する
王宮の警備兵へ、レオンが行方不明になったことを伝えたところ、その話はすぐに広まり、捜索が開始された。
人探しのビラが貼られ、隊が組まれ、持つ情報を提供するよう、人々に呼びかけられる。
しかし、それが表向きのものでしかないことは明らかだった。
彼の気配は、確かに王宮の裏口まで続いていた。それなのに、あの扉の奥が調べられた様子はない。
彼の行方を探るなら、あたしがしたようにその痕跡を探ることが重要だ。小さな子供だってそれを知っている。
探知魔法の専門家に魔力の残滓を調べさせ、それがどこへ続いているのか、途切れた後は、どこへ続いていると考えられるのかを推測することから始めるのが、筋というもの。
それにも関わらず、捜査がされないということは。
「絶対、カーティスが嚙んでるわよね……」
抗議文を出した次の日の、彼の言動を思い返せばそれは明らかだ。
カーティスがレオンを連れ出したとなれば、王も王妃も見過ごすに違いない──というより、彼らとて彼を疎んじ、軽んじていたのだ。手を貸すことすらしたかもしれない。
彼らが犯人だというならば、この件を解決することなど不可能だ。
法で王族を裁くことは理論上可能とはいえ、十分な証拠を集めることはあたしには難しい。なんだったら、とうに処分された後だろう。
第一、本気で解決に乗り出すような人間が、果たしてどれほどいるだろう。
不吉な存在とみなされていた王子のために動くよりも、上の考えを汲んで、形式上の手続きを行うだけの方が、彼らにとってはずっと楽で、安全な道だ。
でも。それでも。
「あたしだけは、諦めてやらないんだから」
少なくともあの扉の先で、レオンは死んではいなかった。
それならばきっと、今も生きている。そう、信じなければ。
神官長の目を盗んで、探知魔法をはじめとした光魔法以外の魔法の訓練を始めよう。魔力の無駄使い? そんなこと、知るものか。
光魔法で得た副産物だけで、彼の行方は探せない。
使えるものはすべて、使わなければ。どの魔法にも適性を持っているという、せっかくのこの身体を利用しない手などない。
この立場もそうだ。
レオンを害したあの男の婚約者とみなされるのは、吐き気がする。とはいえ、王宮で得られる情報は貴重だし、何よりカーティスのことを観察していれば、手がかりを掴める可能性だってある。
何としてでも、レオンを見つけ出してみせる。
──これが彼でなければ、あたしはここまでしようと思っただろうか。
ふと、そんな疑問が頭に浮かぶ。
答えは否だ。悲しく、悔しく思いこそすれど、これほどの激情を抱くことは、きっとない。これほどの執着だって──
「……あ、」
レオンはあたしにとって、大切な友達だ。少なくともつい先日まで、そう信じて疑っていなかった。
手の届かない場所へと消えてしまってから、ほんとうの想いを自覚するだなんて、なんてありふれた悲劇なのだろう。そう言って、笑い飛ばしてやりたい気分だ。
ああもう、本当に……本当になんて最悪な、初恋を自覚する瞬間だろう!
目頭が熱い。襟が湿って、気持ち悪い。
雫をぬぐおうにも、金縛りにあったかのように、腕が動かない。
まるで、誰かにハンカチを差し出されるのを待っているかのようだ。滑稽さに、口の端が歪に歪む。
ぽろぽろとこぼれ落ちる水滴をそのままに、あたしは唇をゆっくりと動かした。
「──レオン、好きよ」
思っていたよりも掠れた声で紡がれた告白は、空気の中に溶けて、散り散りになってしまった。




