第十四話 聖女は第二王子と引き裂かれる
「レオン、あたしよ!……いないの?」
いつものように裏庭へと顔を出したものの、レオンの姿が見えない。
中にいるのだろうかと、表へ戻ってドアをドンドンと叩く。返事はない。
「いるの? いないの? 勝手に開けるわよ」
鍵は案の定かかっていなかった。声はかけたのだから良いだろうと、心の内で言い訳をしながら、中へ入る。
中はいつも通りだった、レオンを呼びながら進むけれど、返事はない。多くない部屋をすべて回っても、彼の姿はなかった。
珍しく、外出しているのだろうか。
一番奥に位置する彼の私室にもいなかったから、今日は帰ろうかと踵を返したそのとき。
視界の端で何かが光った。
気になって近くに寄ってみれば、その正体はすぐに判明する。
それは、彼の愛用しているカップの欠片だった。
母の形見なのだと、教えてくれた彼の目は寂しげで、それ以上に優しい色を宿していたことを覚えている。
あたしが知っている姿のそれも、持ち手の一部が欠けていた。
だけどレオンはそれをとても大切に扱っていたのを知っているから、不注意で落っことすとは考えづらい。
仮に割ってしまったとしても、欠片どころかチリひとつ残さず丁寧に処分するだろう。彼はそういう人だ。
そうなると、これを処分したのは別の人間ということになる。この時点でおかしい。
あたしの知る限り、この離宮を訪ねるあたし以外の人間は、食糧を届けに来る使用人──以前と比べればマシなものを持ってくるようになったらしい──くらいのものだ。
彼らがこの部屋に入ることはないだろうし、別の誰かが来た、というのが合理的な推論だけど、では誰が、何のために?
思い当たる理由が一つ、ある。
──あたしが、レオンのことを気にかけたせい?
あたしたちを無理やり引き離すために、彼をどこかへ連れ去ることを、カーティスはやりかねない。
そうであってほしくはない。だけど、そう思えてならなかった。
早とちりであることを願って、あたしは外へ駆け出した。
単に、外出しているだけであれ。
偶然、割ったカップの欠片を、これまた偶然見落としただけであれ。
そう祈りながら、目を凝らして彼の魔力を探す。
光魔法の訓練をするうちに得た副産物として、あたしは魔力の察知能力が上昇しているのだ。
それを利用して、空間に残った魔力の痕から、彼の気配を見つけ出して、後を追う。
精度は低い。
例を挙げれば、神官に質問があるとき、広すぎる神殿のどのあたりにいるかを、なんとなく把握できる程度のものだ。
本格的に何かを探すなら、探知魔法を学ぶ他ない。
それでも、今使えるものは使わなければと、何度も何度も魔力を練り上げる。
場所を変えて繰り返しているうちに、ようやっと、彼の魔力の残滓が視えた。
それを決して見落とさないよう、辿って、辿って、辿った先は。
「……え?」
そこは、王宮の裏口だった。




