第十三話 聖女は国王一家に勝利する?
ヘーゼル様を説得した、三日後のこと。あたしは王宮にいた。
何のことはない。いつものごとく、妃教育の予定が入っていたのだ。
これが終わればまた、カーティスと茶を飲む必要があると思えばうんざりさせられるけれど、その後にはレオンと会えるのだから、甘んじて受け入れよう。
そんなことを考えながら、いつもの部屋に通されれば、カーティスは既に席へ着いていた。
いつも通りの表情に見えたそれは、よくよく観察すると少し引き攣っているようだ。
きっと、ヘーゼル様からの抗議文が原因なのだろうが……この男がいくら不満に思おうが、あたしの知ったことではない。
改心してくれるならそれが一番だけど、今は彼が健やかであれば、あたしはかまわない。
形式的な挨拶の言葉だけを述べて、目を合わせないよう気を配りつつ、お茶を一口飲んだ。
ちらちらとこちらを伺うカーティスの視線に無視を決め込んでいれば、根負けしたのか、彼はやがてため息とともに口を開いた。
「ねえ、エラ。これは忠告だよ。あいつに関わるのは、やめたほうが良い」
視線を向けてやることもしないで、返答を口にする。
「アナタには関係ないわ。聖女がお友達を作ってはいけないなんて決まりはないもの」
再度、息を吐く音が耳に届いた。続いて、吸う音も。
「だから、あいつは不吉な存在だって、」
「そんな曖昧な理由じゃ、あたしは納得しないから」
苛立ちを孕んだ言葉を遮って、言う。貴重な時間を削ってまで、この男の価値観を矯正するのはあたしの仕事じゃないけれど、大切な友人が侮辱されるのを黙って聞く趣味はない。
我ながら、聖女ってこういうときに対話を惜しまない存在なんじゃないのだろうか。
あたしなんかが選ばれた理由は、一生分かる気がしない。
「……そう」
それだけ言って席を立った彼に、黙って頭を下げる。
カーティスの背中が見えなくなったころ、あたしも部屋を出た。
いつものように、北の離宮へと向かう。
裏手の中庭へ回り込めば、そこにはレオンの姿があった。手元には一冊の本が広げられており、どうやら集中して読んでいるらしい。
目立った外傷がないことに、心の内で安堵する。
「レオン、来たわよ!」
そう声をかけて近寄れば、彼はあっさり本を閉じて、あたしへ笑顔を向けた。
それに微笑みで返事をすれば、前置きもなしに彼は言う。
「兄上たちが、謝りに来たから何事かと思ったよ……君が何かしたんだろ?」
「……余計なことだった?」
この一連の行動は、全部あたしのエゴだ。
彼自身、踏み込まないでほしいという意思表示をしていたのに、あたしは引かれたその線を越えた。
勝手なことをしないでほしかったと言われるのだって覚悟していたけれど、レオンは穏やかに笑って首を振ってみせる。
「いいや、嬉しかった。俺のために怒ってくれてありがとう、エラ」
迷惑には思われていなかったようで、安心した。
眉を軽く下げて、あたしは言葉を返す。
「当然じゃない。アナタはあたしの大切な友達なんだから」
「……そうだな」
そう、彼が少しだけ言いよどんだのは、何を意味していたのだろう。
それを尋ねることができないまま、数年のときが流れることを、今のあたしは知る由もなかった。




