第十二話 聖女は説得する
「殿下は、あたしの大切な友人です。そんな彼をないがしろにしている第一王子殿下に嫁ぐなんて、ごめんだわ」
言葉を選ぼうかとも考えて、やめにした。腹芸なんてものを真似たって、どうせ何十年とそれを使いこなしてきたのだろう、目の前の大神官に敵うはずもない。
それに、ここまではっきり言ったとしても、そう簡単には跳ね除けられないだろうという自信もあった。
「……わたくしを脅していらっしゃるのですか」
完璧な彼女の笑みが一瞬、ひくりと歪んだのが視界に入る。
ひそかにほくそ笑みながら、あたしも負けじと破顔してみせた。
「とんでもない! あたしは、陛下たちが誠意を見せてくださればそれで良いんです。家族なんですもの、言葉を交わせばきっと分かり合えます」
これは、噓だ。いかにも聖女サマらしいその言葉は、あたしが第三者だったら鼻で笑っていたことだろう。
家族であろうと分かり合える保障なんざないと、あたしはよく知っている。
あたし自身、親は流行病で逝ったと教えられて育ったとはいえ、捨てられた可能性だって十二分にあるのだ。
他にも、親や親戚から虐待を受け、保護されて孤児院にやって来た子どももいたし、再婚の邪魔になるからと親の手で連れてこられた子どもだっていた。
だからこの言葉は、聖女としてのパフォーマンス半分、要求さえ通れば素直に嫁いでやるという意思表示が半分のものだ。
「そうなれば、あたしも安心して殿下と結婚できますから」
カップの中へ視線を落とし、なにやら思案している様子のヘーゼル様に、畳み掛ける。
王家はもちろん、神殿としても、聖女を介して王家とのつながりを望んでいることは分かっている。あたしがそれを拒んだとしても、きっと無駄だ。
結託して、無理にでも結婚させられるのは容易に想像がつく。監禁のような手段を取ることだって、彼らはきっと辞さない。
ただ、強引にことを進めた結果、王族と聖女との結婚なんて、珍しいうえに重要なイベントをふいに するなんて、大損も大損。
信頼を稼ぐという意味でも、経済を回すという意味でも、信仰心を高めるという意味でも、大きな効果を見込めるのだから、できることならあたしにも快く協力してほしいに決まっている。
第二王子の待遇改善一つで、それが手に入るというのならば、悪い話ではないと思う。
誠意ある対応なんかじゃない、打算をもってした状況の変化にレオンをさらすのは、心底申し訳ないと思っている。
それでも、原因がはっきりした以上、あたしには見て見ぬふりを貫くことはできなかった。
「──わかりました。わたくしの方からも、抗議文をお送りいたしましょう」
案の定、ヘーゼル様は頷いて見せた。
感謝の言葉を述べたあたしは、一礼して部屋を後にする。
お茶は飲み切ったし、お菓子も出された分は平らげたのだから、もう留まる理由はなかったので。
スムーズに事が運ぶよう祈りながら、あたしは一人、背筋を伸ばして来た道を戻った。




