第十一話 聖女は面会する
その晩、あたしは一通の手紙を書いた。
何度書いても、途中で感情に支配されて支離滅裂になってしまうそれを、その度にゴミ箱に捨てる。そして新しい便箋を取り出して、冷静になるよう念じてから再度ペンを握る。
それを数えるのも馬鹿らしいくらい繰り返して、ようやく完成した――それでも所々怒りを滲ませた文章が散見されるけど――手紙を握り締め、あたしは大神官ことヘーゼル様への面会を希望する旨を、あたしの世話係をさせられている若手の神官へと伝えた。
聖女の頼みを無下にはできなかったらしく、次の日の朝、午後にヘーゼル様と面会が可能であると起床して早々に教えられる。
その時間のためだけに、普段は我ながら真面目に受講していない妃教育も、それなりに勤勉な態度で取り組んだ。そうして長い時間を潰していれば、あっという間に予定の時間になる。
神官様の案内に従って廊下を進み、分厚い扉をノックすれば、長ったらしい歓迎の言葉とともに、ヘーゼル様本人があたしを出迎えた。
にこにこと優しげな笑みを浮かべて、腰を掛けるよう促される。誘導に応じ、素直にふかふかのソファーに座ったあたしを見届けて、ヘーゼル様もその向かいに腰を下ろした。彼女の世話係らしい神官の女性がお茶とお菓子の乗せられたワゴンを運んでくる。
吞気にお茶を飲むために来たわけじゃないんだけど……
しかし、薫り高いお茶にも美味しいお菓子にも罪はない。むしろ手を付けない方が罪だ。神だってきっとそう言っている。神の声なんて、生まれてこの方聞いたことはないけど。
そんなことを考えながら、あたしはカップから音をたてないようにお茶を啜り──神殿に来たばかりの頃、孤児院にいたときと同じように飲んでいたら、教育係にそれはそれは怒られたからだ──お菓子をつまむ。
「ところで、本日はどのようなご用件でこちらへ? わたくしとしては、ただこうしてお茶の時間を共にさせていただくだけで光栄なことに違いはありませんが……」
暗にさっさと本題を話せと言われたのを察知したあたしは、半分ほどに減ったカップをソーサーに置いて口を開いた。
「あたしは、第二王子殿下の待遇改善を王室に要求します。そのことに、協力していただきたいんです」
こちらをご覧ください、と続けたあたしは、昨日したためた手紙をヘーゼル様に差し出した。敢えて封はしていない。
昨日見た光景を、そっくりそのまま書きつけたそれが、感情的なものにならないように心を配るのは、ひどく骨が折れた。
内容をあらためた彼女は、大きく息を吐いて言う。
「そのお優しいお心に、心からの敬愛を表します。流石は聖女様ですわ。ですが……」
「王家の家事に神殿が首を突っ込むべきではない、と?」
ヘーゼル様の言葉を遮り、予想していた続きを口にしてやる。案の定返ってきた首肯に、密かに拳を握りしめた。
だけどあたしは、何も考えなしに突撃してきたわけじゃない。小さく息を吸って、あたしは次の言葉を口にする。




