「ドラゴンの泪」
「「ドラゴンの泪」?」
王太子殿下は、さわやかな笑い声を上げた。
いつの間にか、わたしたちのうしろにエドモンドやアルノーたちが立っている。
大広間にいて談笑しているゲストたちも、こちらに注目している。
エドモンドは、王太子殿下に小ぶりの宝石箱を恭しく差しだした。
「第一王子、「ドラゴンの泪」の由来を知らないようだな。それでよく、入手したものだ。それは、わがバルト王国の王家に受け継がれる宝石で、国王から王太子に譲られるものだ」
彼は、エドモンドから受け取ってその蓋を開けた。
国王陛下をはじめ、席についているすべての人々に見えるようかかげて見せる。
心の中で嘆息してしまった。
青く輝くそれは、言いようもないほど美しいネックレスである。
このテーブル席にいるすべての人が、その青い輝きに魅入っている。
「あらかた偽物でもつかまされたんだろう」
「なんだと?五千ロイドもしたんだぞっ」
第一王子は、テーブルを両手で叩き立ち上がった。
五千ロイド?高価すぎてどのくらいの額なのかしら想像しにくい。
「そんな……。あれが偽物?屋敷に保管しているあれが?」
「そうだよ、レディ。きみは、偽物を着用していたわけだ」
「嘘よ。じゃあ、偽物の偽物を首からぶら下げていたってこと?」
彼女も立ち上がった。怒りで顔が真っ赤になっている。
偽物の偽物?
ああ、なるほど。
葡萄酒をかけられることになっているから、偽物を準備してそれをつけていたということね。
「この「ドラゴンの泪」は、国王から受け継いだ王太子が、正妃になるべきレディに贈ることになっている。その代によって、贈るタイミングは様々だけどね」
彼はそういうなり席を立ち、わたしの横に片膝をつけてそれを差しだした。
「わたしは、これをいまここできみに贈りたい。ヤヨイ・デジール。婚約の期間などもう必要はない。わたしの妻になってほしい。これを、受け取ってほしい」
差しだされた「ドラゴンの泪」と王太子殿下とを交互に見ながら、いま言われたことを頭の中で整理しようとがんばってみた。
ああ、そうだった。わたしは、婚約者のふりをしているのだから、もちろん「はい」と言わなければならないわけで……。
でも、いくら芝居でも畏れ多すぎやしないかしら?
「ヤヨイ。わたしは本気だ。どうか、「はい」と言ってほしい」
そのとき、王太子殿下がささやいた。
そうよね。芝居なんですもの。続けなきゃ。
胸のあたりがわずかに痛い。この痛みはなにかしら?
「はい。よろこんでお受けします」
そう言いながら、切ないようなうれしいような、そんな複雑な気分に襲われた。




