ざまぁ開始
「ヤヨイ?これはまた美しい。そうだな。きみはもともと美しいのだから、日頃のドレスももっと豪華なものにした方がいいかもしれないな」
「国王陛下、ご挨拶申し上げます」
「今宵も見事な采配ぶりであった。ミルク入りのカモミールティー、じつに心が落ち着く」
「恐れ入ります」
ドレスの裾をわずかに上げ、挨拶をした。
国王陛下は、お酒の類をいっさい嗜まれない。
夜にお出しする飲み物は、ミルク入りのカモミールティー。たとえパーティーであってもそれ以外の飲み物はお出ししない。
これは、お母様のときからの暗黙の決まり事である。
「陛下。怖れながら、彼女はメイド長をクビになったのでございます」
そのとき、テレズが口をさしはさんだ。
彼女は、やはり第一王子の婚約者としてこのテーブル席についている。
「なんだと?」
国王陛下の眉間に皺がよった。
「わたしの婚約者に無礼を働いたからです。そして、わたしのことを悪く言っております。だから、婚約者候補から外し、メイド長をクビにいたしました」
第一王子がとくとくと報告をすると、国王陛下の眉間にさらに皺がよった。
「お話し中、失礼いたします。わたしの婚約者を立たせたままにしたくありませんので」
王太子殿下がそのタイミングで席を立ち、その隣の椅子をひいてわたしに座るよううながしてくれた。
「婚約者?」
「婚約者?」
第一王子とテレズが叫んだ。
「ええ。会談でこの国に参りましたが、会談の成功などどうでもよくなっています。今回の訪問は、ヤヨイ・デジールと出会えたことが、最大の収穫です。国王陛下、あなたには多大なる損失をあたえることになりますが」
「そ、そんな……。こんな下働きを婚約者にするですって?バカバカしい。失礼ですが、バルト王国の王太子殿下ともあろうお方がずいぶんと安っぽいのですね」
テレズの言葉に、カチンときてしまった。
わたしのことをとやかく言うのはかまわない。だけど、王太子殿下を安っぽいだなんて。
あなたの方こそ安っぽいわよ。
それこそ、彼女に樽ごと葡萄酒をぶちまけてやりたくなる。
それに、彼女が王太子殿下を見る目も気に入らないわ。どうせ王太子殿下の美しさに惹かれているにちがいない。
男好きの彼女らしい。それから、権力のある男が大好きな彼女らしい。
「失礼ながらレディ、きみはずいぶんと他人を貶めた物の言い方をするんだな。先夜、彼女を、いや、メイドという存在自体をバカにしていたが、きみはそのメイドたちのお蔭で、派手な恰好をしていまここに存在しているのではないのかい?彼女たちがいなかったら、きみは朝寝台から起き上がることもできないはずだ。感謝こそすれ、バカにしたりましてや存在を否定することなどできないはずだ」
王太子殿下の非難に、彼女は彼女自身の婚約者に助けを求めるかのような視線を送った。
が、第一王子は肩をすくめただけである。
「だが、きみと第一王子には感謝しなければね。きみたちがあんな茶番を演じてくれなければ、彼女を得ることはできなかっただろう。メイド長として、王宮内のすべての雑事を完璧にこなし続けるだろうから。今夜も彼女がいなければ、このパーティーはどうなっていただろうね?」
「王太子殿下、なんとかおっしゃってください。わたしは、ただ……」
彼女は、視線だけでなく言葉に出して助けを求めた。王太子殿下というのは、第一王子のことである。彼女は、まだ正式に王太子になっていない第一王子のことをそう呼んでいるのである。
「先夜のパーティーで大量の葡萄酒をぶちまけられ、「ドラゴンの泪」と高価で一番のお気に入りのドレスをダメにされたのです」
「ああ、わかっている。わたしがきみに贈ったからね。あれだけは、ちゃんと責任をとってもらわないとな」
そこが一番問題なのよ。




