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現場は大混乱

 王太子殿下は、宮殿のエントランスホールで待っていてくれた。


 人々はそのキラキラ輝く王太子殿下の美形にかならず注目し、通りすぎてゆく。


 白色の正装服がかすんでしまっている。


 キラキラしすぎだわ。


 この一夜でこのキラキラともお別れになる。

 いまのうちに、一生分のキラキラを味わっておかなければ。


「ヤヨイ?」


 彼が近づいてきた。自然な動作で腰をわずかに折ってわたしの手を取り、そこに口づけをしてくれた。


「すまない。どうも耐えられそうにない」

「はい?」


 王太子殿下の言葉の意味が理解できなかった。


「あ、いや。ドレス、似合っているよ。そう、すごく素敵だ。美しすぎる」


 そんなにお世辞を並べていただかなくっても……。


「わたしは、しあわせ者だ」

「あの、王太子殿下。殿下はキラキラ輝きすぎていらっしゃいます。いまさらですが、お一人でいらっしゃったほうがよくありませんか?やはり、わたしでは殿下とつりあわなさすぎるかと」

「そんなことはない」


 力いっぱい否定されてしまった。


「とにかく、行こう。ちょっとおおごとになりすぎてしまったようでね。国王陛下と第二王子も出席されるみたいなんだ」


 彼の左腕に自分の右腕を絡め、彼と大廊下を歩きはじめた。


 大広間から専属の楽団が奏でる曲が、ゆったりと流れてくる。


「陛下が?それに、第二王子まで?第二王子は、ダラス国軍の将軍の一人なのです。わたしも、一度しかお会いしたことがありません。ずっと西方地域を守っていらっしゃいますので」


 よりにもよって、こんなときにご帰還されたの?


 王太子殿下の横を歩きながら、人々の目にさらされ穴があったら入りたい気持ちでいっぱいになってしまう。


 大広間に入ると、メイドたちの姿がまったく見えない。


 今夜のパーティーが急すぎて、飲み物すら提供しないのかしら?


 そんなわけはないわよね。


 大広間の片隅には、簡単なおつまみを並べるための長テーブルが配置されている。一応、白いクロスがかけられている。それに、そのテーブルの端には、大量の皿が積まれている。


 すると、ちらほらメイドが現れ、飲み物を配りはじめた。


 が、あまりにも手際が悪すぎる。そうこうしているうちに、ゲストの間から不満の声がではじめた。


「おい、こちらのレディにカクテルを」

「こちらには、葡萄酒を」

「きこえていないのか。こちらにも葡萄酒をくれ」

「さきほども頼んだぞ」


 などと、あちこちから怒鳴り声があがりはじめた。


「申し訳ございません。すぐにお持ちいたします」


 自分でも驚いてしまった。


 勝手に口からそう出ていたのである。


 周囲の人が驚いてわたしを見ている。


「やだ……」


 口に手を当て、かたまってしまった。


「ヤヨイ、行って助けてあげなさい。この場を仕切れるのは、きみしかいない」


 王太子殿下がやわらかい笑みとともに言ってくれた。


「申し訳ございません。すぐに戻ります」


 そう伝えてから、彼の腕から自分のそれをはずし、回れ右して走りだした。


 ああ、わたしってば。せっかくのドレスがもったいなさすぎる。


 そうして、わたしはメイドたちのいる厨房脇の控室へ向かった。


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