パーティーへ
翌日は、朝から大変だった。
いつものように王太子殿下たちに朝食を作って給仕をした後、アルノーといっしょに王宮から出て街に行き、バルト王国の貿易商と会った。
ドレスは、すでに王太子殿下がだいたいの希望を伝えてくれていたらしく、あとは胸元や腰回り、お尻のあたりの調整を行うだけであった。
驚くべきことに、薄い蒼色の色合いはわたしの好みとピッタリであるし、胸元が開いていなくって過剰なフリルもついていない控えめなデザインもわたしの好み。さらには、寸法もほぼ間違いなかった。
まるでわたしの好みや体格をよく知っているかのようである。
「ああ。デザインや色は殿下の見立てだけど、寸法はエドモンドなんだ。あいつは、レディを見ただけでなぜか、その、スタイルがどんな感じか言い当ててしまう。ある意味、天才だね。もっとも、その才能を自分のためにいかしてほしいけどね」
アルノーは、そう言って笑った。
とは言え、エドモンドはバルト王国一の剣士らしい。
彼は王太子殿下直属の護衛兵で、彼さえいればほかに護衛の兵は必要ないらしい。
あのニキビ面の童顔の彼が、そんなにすごい人だっただなんて。
だけど、彼はなかなか女性と縁がないらしい。
貿易商は、ドレスを着させてくれたり髪のセットや化粧をしてくれる人も呼びよせてくれていた。
すべての準備が整ったのは、もう夕方近くになっていた。
準備の途中で、夜にパーティーを行うことになったという知らせが入った。
すべて計画通りみたい。
準備が終わり、ずっと待っていてくれたアルノーの前に立った。
あきらかに、わたしがドレスを着ているのではなく、ドレスに着られているって感じがする。
素敵なドレスを台無しにしてしまっているという、申し訳なさにさいなまれてしまう。
「ヤヨイ……。素敵だよ。すごく素敵だ。これでわたしがニ十歳は若くてまだ妻に出会う前だったら、すぐにでも交際を申し込んだだろう」
彼は、お世辞を言ってくれた。
「奥様を大切にされていらっしゃるんですね」
馬車に乗り込み王宮へ向けて走り出してから、彼に尋ねてみた。
落ち着いていて知的な美形の彼は、すごく奥様を大切にしていそう。
「ああ。わたしの一方的な熱意だよ。双子の娘がいてね。これがもう、可愛いのなんのって。妻と二人の娘たちは、わたしのかけがえのない財産さ」
彼は、前を向いたまま答えた。
夫の顔、父親の顔……。
一瞬、彼の奥様とお嬢様たちがうらやましくなった。
いつか自分も彼のような素敵な男性に、おなじように想われる日がくるのだろうか。そんな夢みたいなことを思ってしまう。
「きみを見たら、王太子殿下は耐えられないだろうね」
「え?」
「あ、いや。なんでもない」
そのあとは、緊張も手伝ってか彼と話をする余裕がなくなってしまった。
ちょっとしたパーティーなのに、大勢の人々がやって来ている。
軍服姿の士官も大勢いる。
ちょっとしたパーティー、よね?
貴族だけではない。士官もということになれば、飲み物や食べ物を運ぶ順序、タイミングが難しくなる。
しかも、急遽行われることになったのである。
メイドたちも料理人たちも大混乱に違いない。それらをうまく采配できるかしら?
お母様だったら、どのようにされるかしら?
そこまでかんがえ、はっとしてしまった。
バカね。わたしはもうメイド長じゃないのに。
苦笑してしまった。




