のぞき見
「それで、先日のパーティーでは第一王子に祝辞を述べていなかったからね。会って祝辞を述べたい旨を申し出るつもりだ。そうなれば、簡単なパーティーでも開いてくれるかもしれない。きっと、あの高慢ちきな婚約者候補もくるはずだ」
そういう申し出があれば、見栄っ張りな第一王子はよろこんでパーティーを催すにちがいない。そして、テレズ・ドーファン侯爵令嬢を同道し、自慢するだろう。
ということは、テレズとグルのメイドのシドニーがメイド長としての初仕事をするでしょう。
「そこで、きみに付き添ってもらいたい」
「付き添い、でしょうか?」
「ああ。彼だけ女性連れで、わたしがそうでないというのも、国の威信にかかわるからね。迷惑かもしれないが、婚約者のふりでいい。協力してくれないだろうか」
「しかし、殿下。わたしは、メイド長としての地味なドレスしか持っておりません。それも、ずいぶんと着古しています。殿下につりあうような華やかなドレスは一着も……」
そう言いかけて、自分でも可笑しくなってしまった。
それ以前に、わたし自身が王太子殿下につりあわない。それを、ドレスを持っていないなんて、ドレスのせいにしている。
「それなら心配はいらない。ちょうど国から貿易商がきていてね。すでに話をつけている。明日、わたしが会談中にアルノーが連れて行ってくれる。だから、きみは何も心配しなくてもいい」
でも……。
言いかけてやめてしまった。
そうね。たとえふりでも、王太子殿下の婚約者になれるってこんな名誉なことはない。
それに一生に一度くらい、メイドとしての立場ではなく、ゲストとしてメイドの仕事を見てみたい。
「あの……。こんなわたしですが、マナーだけはちゃんとしていると思います。王太子殿下に恥をかかせないようにいたしますので、連れて行ってください」
「そうこなくては。大丈夫。わたしがついているから。このまえのパーティーのようなことは、だれにもぜったいにさせない」
二人で体ごと向き合い、見つめ合った。
やっと彼の顔を見ることが出来る。
でも、心臓のドキドキがさらに増し、このままでは破裂するか急停止するかもしれない。
「ヤヨイ……」
王太子殿下の手が伸びてきて……。
「押すな、押すなって」
「おまえこそ押すな」
「うわっ」
「いたたたっ」
そのとき、すぐ近くにある茂みをかきわけるようにして、エドモンドたちが団子状態で現れた。
「アハハハッ!トイレ、トイレはどこだったでしょうかね?」
「あっちだったかな?」
「いやー、こちらではないか?」
「おっと、こっちだこっち」
四人は、大慌てて駆けて行ってしまった。
「まったく……。のぞき見など、品位の欠片もない」
王太子殿下の苦笑を見て、ドキドキがマシになった。そのかわりに、笑いがこみあげてきた。
笑いはじめると、王太子殿下も笑いはじめた。
二人でいついつまでも笑っていた。




